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◇◇
そう、勤めていた会社がいきなり倒産したのだ。
朝、いつものように恵比寿の会社に出勤したら、大勢の社員がオフィスのエントランスの前で呆然と立ち竦んでいて。
閉じられたドアの前には、裁判所において倒産手続の申し立てがどうのこうのという張り紙が。
周りの人に聞いた話では小さいIT会社には良くあることらしいが、私にとっては全くの寝耳に水だった。
ドラマとかでは見たことがあるけど、まさか自分の身にこんな災難が降りかかるなんて。
昨日まで当たり前のように通っていた会社が突然閉鎖され、いきなり私は無職となってしまったのだ。
それから先は、頭が真っ白だ。
気づくと、和田塚写真館へと来ていたのだった。
◇◇
「……そうか、それは大変だったね」
私の話を聞いた倉橋さんは、いかにも気の毒そうに言った。
「はあ、これからどうしたらいいのか。貯金もそんなにないし……」
倉橋さんは立ち上がると、難しい顔をしてそばにあった丸椅子に腰掛けた。
そして腕組みをして、じっと私の顔を見つめる。
「加奈さんって、やっぱり東京で働きたいのかな?」
「東京にこだわるわけじゃないですけど……てか、今となってはそんなこと言ってられませんよ。どこでもいいから早く次の就職先を見つけないと」
「加奈さんなら、優秀だからどこでもすぐに見つかるんじゃないかと思うけど」
「そんな……ちっとも優秀なんかじゃないですよっ。ドジだからいつも仕事でミスばかりしてて、倒産しなかったらクビになってたかもしれないです」
「そうかなあ。加奈さんは機転も利くし、行動力だってある。そんな人材、どこの会社でも欲しがると思うんだけどなあ」
「倉橋さん……私のこと買いかぶりすぎですよ」
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