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「あ、あの…… どうかしましたか?」
「あ、いやごめんね。ちょっと考え事してた。このカメラのエンブレムを見てくれるかな?」
カメ吉のボディに刻まれたエンブレム。
そこには、『Kamakon』というロゴが見て取れる。
「これはカマコンって言って、鎌倉光学有限会社が製作したカメラに付けられている名称なんだ」
鎌倉光学有限会社?
キヤノンやニコンなら有名だけど、そんな会社は聞いたことがない。
「鎌倉光学はその昔、大船撮影所のそばにあった小さな町工場で、映画の撮影用にカメラやレンズを製造していたんだ。それらは写りがとても良いと評判だったけど、当時の社長が亡くなった1970年を最後に工場を畳んでしまったのさ」
「えっ! じゃあ、今はない会社ってことですか?」
「そう。当時作っていたカメラはフィルム用だから、こんな最新式のデジタルカメラなんて存在するはずないんだよ」
「そんな、じゃあこのカメ吉はいったい……」
「ニセモノか…… そうじゃなければ、『怪異』かもしれない」
そう言うと、彼は私に向けてカメ吉を構えた。
「あ、あの!」
急なことにあわてて手で顔をさえぎったが、構わずシャッターを切る。
そして液晶画面を見ると、何かわかったかのように深くうなずいた。
「ほら、見てごらん」
画面を覗くと、そこには私の姿はなく、桜の写真が入った額縁が掲げられた後ろの壁が写っているだけだった。
「えっ、えっ、なぜ?」
「今、撮った写真は1週間前のこの場所なんだ。つまり過去の写真ってこと」
頭が激しく混乱した。このひとは何を言っているのだろう。
「後ろの壁を見てごらん」
振り返って見ると、後ろの壁にはカメ吉の画像に写っている桜の額縁がない。
「これは……いったいどういうこと?」
「ここに写っている桜の額縁は、1週間前まで飾っておいたもので、今は店の裏にしまってある」
今は無い額縁が、画像にはしっかり写っている。
なぜ、そんなことが。
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