第1話 紫陽花の色は変わりゆく

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「さっき見てみたら、このカメラの時計が1週間遅れていたんだ。紫陽花は時間とともに紫色から青色へと変化する。それで気づいたんだよ。さっき君が撮った紫陽花は、実は1週間前に紫色だったころの写真じゃないかってね」 「そそそ、そんな非現実なことってありえるんですか!」 彼は、腕を組んで話を聞いていたハゲタコ親父と顔を見合わせた。 「安藤さん、どう思います? 話すべきですかね?」 ハゲタコ親父は難しい顔をしながら、ふうと息を吐いた。 「まあ、仕方ないんじゃないかな。このカメラはお嬢さんのだし、ちゃんと事実は知っておいたほうがいいかもしれんなあ」 彼はしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げ真剣な眼差しで私の目を見つめた。 「今からする話は、誰にも話さないと約束してくれる?」 「は、はい」 「この鎌倉という土地は、こういった不思議なことがしばしば起こるんだ。時間や空間がずれたり、もののけが現れたり。昔から住んでいる人たちはそのことを知った上で、それらの『あやかし』と共存している。よその土地の人たちには知られないようにね」 「まさか、そんなことって……」 「そう。鎌倉のあやかしを知らないひとは真実を知ると誰もが驚いて怖がる。鎌倉は観光資源で成り立っているから、怖がられて観光客が来なくなるとダメージを受けるのさ」 「はあ……」 「それに、世の中にはオカルトめいた話が好きな輩も大勢いる。そいつらが興味本位に鎌倉にやってきてあやかしを勝手にほじくり返されると困ったことになる。これまでここの住人がうまく調和を取ってきたあやかしとの微妙なバランスが崩れてしまう。そうなると、何が起こるか想像もつかないんだ」
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