第1話 紫陽花の色は変わりゆく

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いやはや、ここでの生活を甘く見ていたのだ。 東京まで遠いのはわかっていたが、通勤は地獄だ。 朝は身動きできないほどの満員電車で、本を開く余裕なんてありゃしない。 帰りも駅からアパートまでの徒歩20分という距離は、残業で疲れた体に酷くこたえる。 おかげで、土日は疲れきって家で寝てばかり。 せっかく鎌倉に来たのに、この2ヶ月で行ったところといえば駅から一番近い場所にある鶴岡八幡宮くらいだ。 東京に住んでいる友達ともすっかり疎遠になってしまった。 ああ、吉祥寺にあるレモンドロップの甘いケーキが食べたい…… これもホームシックというべきなのか、今となっては東京の生活が懐かしく、そして楽しく思える。 後悔先に立たず。 鎌倉に移住するからと会社の人や友人たちに得意気に触れ回って羨望の目を集めて来た手前、そして何より引越しですっからかんになってしまった貯金を考えると今更東京になんか戻れない。 ふと、ベッドに置いてあったスマホが通知のベルを鳴らした。 手にとってSNSを開いてみると、大学時代の友人であるリア充女子、白河サヤカが新しい画像を投稿していた。 真っ青な青空のもと、東京湾を望むおしゃれな施設で楽しそうにバーベキューをしている男女の姿やおいしそうな料理の写真が並んでいる。 『今日は朝から友人たちと豊洲ベイサイドでバーベキュー! 太陽の下で食べるお肉がとっても美味!』 サヤカはSNSへの写真投稿に人生を捧げており、そのために本格的なデジタル一眼カメラも買って日々撮影に取り組んでいる。 カメラが良いのか撮影の腕を上げたのか、撮られた写真は確かにとても綺麗で、フォロワー数も多い。 この写真にも早速、100を超える「いいね!」がついていた。
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