第1話 紫陽花の色は変わりゆく

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◆◆◆ 真っ青な空と海原。穏やかな波の音、そして潮の香り。 目の前に由比ヶ浜の海岸が広がっている。 鎌倉駅から若宮大路を鶴岡八幡宮とは反対方向に15分くらい歩いくとこの海岸に出る。 ここへ移住してからはじめての海だ。 それにしても、6月に入ってからずっと暑い日が続いている。 真夏のような日差しが容赦なく照りつけ、薄めのシフォンブラウスを着ててもからだじゅうから汗が滲んでくる。 砂浜を歩きながら、フラットシューズを履いて来たことに後悔した。砂がどんどん靴の中に入って来て不快この上ない。 周りを見渡すと海岸にいるひとたちは皆、サンダル姿だ。これも湘南スタイルというやつなのか。 海に向けてカメ吉を構え、何枚かシャッターを切った。 液晶画面で確認すると、意外と綺麗に撮れていて満足した。 今日は由比ヶ浜を起点として、江ノ電に乗って長谷寺と大仏のある高徳院を回るのだ。 なんだか気分も高揚してきた。ここへ来てはじめて鎌倉という土地を実感しているような気がする。 由比ヶ浜に別れを告げ、海岸沿いに走る国道134号線を横切って静かな小路へと入る。 スマホのマップによれば、この道をまっすぐ行けば江ノ電和田塚駅にたどり着くはずだ。 ひと気のないのんびりとした雰囲気の道を歩いて行くと、古い民家の庭先から道路に向かってぴょこんと顔を出した紫陽花を見つけた。 光に当たって紫色に輝く花びらがとても綺麗だ。 カメ吉を構えてファインダーを覗き、レンズを紫陽花に向けてシャッターを切る。 ぱしゃこん! ん? いつもとシャッターの音が違う感じがする。パシャ、じゃなくてくしゃみをしたような変な音だ。 不審に思いつつファインダーから目を離し、再生ボタンを押した。 「あれ?」
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