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声を掛けられて、あわてて手を振った。
「あ、なんでもないんです。お取り込み中、失礼しました!」
「えっ、ちょっと待って!」
ハゲタコ親父はつかつかと近寄ると、扉を大きく開けて店内へと招くように片手を差し出した。
「どうぞ、お嬢さん。いらっしゃい」
「で、でも……」
「あ、俺ただの客だから気にしないで。さあ、入った入った」
そう言うとハゲタコ親父は店内に向けて声を上げる。
「コウちゃん! お客さんだよ。めずらしいねえ」
開いた扉の向こう、店の奥側に若い男性の姿が見えた。
身長は高く180cmくらいで、細身の体にシンプルな白いTシャツとGパン、サンダル姿がマッチしている。
長めの髪はぼさぼさで少し茶色がかっているが、鼻筋の通った整った顔立ちに、きりりとした目。
かなりのイケメンだ。肌がほどよく日焼けしているのが地元っぽさを感じる。
その人は私を見て、爽やかに微笑んだ。
「いらっしゃい。フィルムの現像かな?」
はっきりした、けれど優しい声だ。
この人が店主か。ずいぶん若いし、古ぼけた写真館のイメージとはかけ離れている。
「い、いえあの、違うんです。カメラが壊れちゃったんで、見てもらいたくて」
「そうなんだ。ちょっと見せてみて」
カメ吉を差し出すと、長くしなやかな指で大事そうに受け取った。
「お嬢ちゃん、俺の怒鳴り声、聞こえちゃった?」
ハゲタコ親父が割り込んでくる。
「ごめんね、怖がらせちゃって。だってさあ、俺が持って来た貴重なカールツァイスのレンズ、コウちゃんがニセモノだって言うからさあ」
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