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第3話 霧中の亡霊トンネル
「いやあ、やっぱり鎌倉っていいわあ!」
親友のさとみはそう言いながら、小皿にたんまりと盛られた生しらすを次々と口へと運んでいく。
日曜の夜10時。
横浜からふらっと遊びに来たさとみのリクエストで、小町通り裏にある小さな飲み屋へと来ていた。
私もこんなお店に入るのは、引っ越して来て以来初めての経験だ。
テーブルには生しらすの他にも、朝獲れアジやサバの刺身、金目鯛の煮付けが並び、どれも新鮮で脂が乗っていて美味だ。
漁港が近い鎌倉だけあって、海鮮ものの質はとても高い。
「おいしいねえ。毎日こんなもん食べれる加奈がうらやましいよ」
「まあ食べ慣れてしまうと、これが普通になっちゃうけどね」
いやいや。
普段はコンビニご飯なのに見栄張ってどうする。
「いいなあ、私も鎌倉に移住しちゃおうかな。美味しい魚料理とスローライフかあ。憧れるなあ」
箸を片手に羨望の眼差しで空を見つめるさとみ。
「いいじゃん、来ちゃえば。海も近いし静かなお寺もあるし。落ち着けるいいところだよー」
普段の虚しい生活を棚に上げて無責任に勧める私。
こうして釣られてしまった鎌倉移住女子が増加しているのかもしれない。
「いやいや、やっぱり東京まで通勤1時間ってのはちょっとね。今住んでる横浜だって遠いって感じるくらいだから。ただえさえ低血圧の私が朝、さらに早く起きるって無理だわ」
うっ、まさに私がそれを実感しているところだ。
朝は辛い。早起きも満員電車も辛過ぎる。
「ま、まあね。確かにちょっとだけ遠いかも……」
「それよりさ、こっちでいい男見つけた?」
突然の振りに、ふと頭に浮かんだんだのは、倉橋さん。
「えーと、まあ、その」
「あっ、なに。その曖昧な言い方。もしかして彼氏できたの!?」
「いや、彼氏じゃないけど……」
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