第5話 少年と人拐い鬼

1/18
150人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ

第5話 少年と人拐い鬼

古いカメラが陳列されたガラスケース製のレジカウンター越しに、安藤さんがぬっと顔を私に近づけてくる。 その目つきはいつになく怪しい。 「カナちゃん、いいかい。こいつはとっておきの代物なんだ」 低い声でそう言いながらカウンターの上にそっと置いたのは、古ぼけたアンティーク調の小さいレンズ。 銀色で筒型の形状をしたそれは、いかにも年季の入ったにぶい光を放っている。 「ライカって、名前くらいは聞いたことはあるだろ?」 「ええ、まあ…… なんとなくですけど」 「ドイツが生んだ世界最高峰の光学機器メーカーであるライツのカメラブランドが、ライカさ。その歴史は1925年にエルンスト・ライツ二世が市販化したライカ1型から始まったんだ。今からおよそ100年も前のことだよ」 「はあ」 「以来、ライカはカメラ界においてトップの座に君臨し続けた。今や世界的に有名な日本のカメラだって、最初はライカの模倣から始まったんだぜ」 「そうなんですか」 「で、こいつはそのライカの歴史においても、特に有名なレンズなんだ」 そう言って、安藤さんは腫れ物でも触るかのように、そっとレンズを手に取る。 「その名も、エルマー5cm F3.5。1930年代半ばに生産された逸品さ。どうだい、美しい形をしてるだろ」 「はあ、そうですね」 「なんだよ、カナちゃん。反応が薄いなあ。こいつの良さがわからないかねえ」 安藤さんが、不満気にため息をつきながら私を睨む。 「いや、そう言われても……」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!