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第5話 少年と人拐い鬼
古いカメラが陳列されたガラスケース製のレジカウンター越しに、安藤さんがぬっと顔を私に近づけてくる。
その目つきはいつになく怪しい。
「カナちゃん、いいかい。こいつはとっておきの代物なんだ」
低い声でそう言いながらカウンターの上にそっと置いたのは、古ぼけたアンティーク調の小さいレンズ。
銀色で筒型の形状をしたそれは、いかにも年季の入ったにぶい光を放っている。
「ライカって、名前くらいは聞いたことはあるだろ?」
「ええ、まあ…… なんとなくですけど」
「ドイツが生んだ世界最高峰の光学機器メーカーであるライツのカメラブランドが、ライカさ。その歴史は1925年にエルンスト・ライツ二世が市販化したライカ1型から始まったんだ。今からおよそ100年も前のことだよ」
「はあ」
「以来、ライカはカメラ界においてトップの座に君臨し続けた。今や世界的に有名な日本のカメラだって、最初はライカの模倣から始まったんだぜ」
「そうなんですか」
「で、こいつはそのライカの歴史においても、特に有名なレンズなんだ」
そう言って、安藤さんは腫れ物でも触るかのように、そっとレンズを手に取る。
「その名も、エルマー5cm F3.5。1930年代半ばに生産された逸品さ。どうだい、美しい形をしてるだろ」
「はあ、そうですね」
「なんだよ、カナちゃん。反応が薄いなあ。こいつの良さがわからないかねえ」
安藤さんが、不満気にため息をつきながら私を睨む。
「いや、そう言われても……」
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