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「昨夜怪しい者は見かけなかったか?」
ルフが答えないのはいつものことだった。
老騎士の額に青筋が立つのを見かねて、ひとり座っている若騎士が同じ質問をする。
「ケツに噛み付いてやったよ」
今度ははつらつと返事を返す。ほうほうの体で逃げるぬすっとたちの情けない悲鳴を思い出して、ルフは愉快そうに笑った。
「変なものを口にするなといつも言っているのに」
「侯、問題はそこではありませんぞ」
ずり落ちかけた冠をただし、取りつくろうように咳払いをして、領主が不審者の処遇を尋ねた。
「逃げ足が速かったからな」
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