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そこには何もなかった。
領主の視界に入る一瞬前、ルフは一緒に吹っ飛んだ男の襟首をつかんで跳ね起き、あらゆるものをそのままにして逃走したのだ。あとに残された領主は、「だから野良犬など」と老騎士に小言を浴びながら、不思議そうな顔のまま元の仕事に戻った。
***
そうして、その日、街からひとりの犯罪者が消えたが、大して問題にはならなかった。ルフは職務に忠実な領主に見つからぬよう、うまくやったのだった。
(終)
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