1章:くっ、中世のくせに意外と不便じゃない・・だと

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……さて、その在籍していた日本企業で俺は親友を見つけていた。勝というやつだ。  いかにも日本人という『なよなよ』した奴だが、仕事に向かう態度はほめるべきだろう。日本企業の社員はまるで戦争でもするかのような気迫で仕事をしている。しかも俺の良く知る個人だけでの成果ではなく、チームとしての組織としての成果を求めて鬼気迫る様子だ。これこそ俺の求めた刺激、成長への足掛かりだ。  1年、2年して俺は勝とよく飲みに行くようになった。  熱く語り合った夜は少なくない。  仕事面でも助け合った。いや、俺は外国人だったのでどちらかというと助けられたともいう。……まぁ、気にすることはない。  酒を飲むと互いの理想を語り合った。  『歳を取った時どうありたい』とか、『今の会社の方針について』とか、とりとめのない話ばかりだった。  ……だが、お互い高めあっている感覚が楽しかった。  協力して競い合う。  チームとして成長しようとするのは日本企業の美徳である。  やがて『東アジア方面で俺は出世するぜ』と俺が異動希望先の部署と、そこがどれほど会社に利益をもたらすかを語る。『俺は王道を行く』と社内のコネを使って強風の中を進む決意を固めた勝と、お互いの近い将来と遠い将来のビジョンを語り合う会となっていった。  終電過ぎに飲み始めて始発に乗る頃には『偉くなったら高級店おごれよ』と言い合ってこぶしを合わせて分かれる。そんな日々を楽しく過ごしていった。  ここで働き始めて数年経過した頃……。  30近くなった俺に故郷からヘッドハンティングが来た。  国の政策に乗って急成長した会社だ。  しかも部長待遇で、だと言う。俺は一も二もなく飛びついた。  勝に報告すると渋い顔をされた。それでも最後には応援してくれた。  別れるときに互いの健闘を誓い『俺の会社とこの会社で取引するときは手加減しないぜ』というと『私の成績に貢献する取引であることを期待してるよ』と返された。  ……明言していないが、ビジネス上での再会の誓いは、俺達にとっては大事な約束になった。『やってやるぞ』っとその時は思っていた。  そして故郷に帰った。
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