1章:くっ、中世のくせに意外と不便じゃない・・だと

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 勝は終電間際の電車に揺られながら帰途に就く。  電車から見える景色が地下から地上に変わると、そろそろ東京から千葉に至る。  現在勝を押し込めている、この陽気なすし詰め状態からもあと数駅で解放される。  周りには気の許せる仲間同士酒を飲んだ帰りであろう、酔っ払い達が大多数いる。この中で勝はマイノリティである。  勝は少しばかりの阻害感を感じつつも、「いつものこと」と開き直り電車内のLED案内板をみる。  路線の情報と次の駅の情報が交互に映されている。「いつものこと」だ。次の駅でこの陽気な集団の大半が降り、次の次の駅で勝も別路線に乗り換える。それまでは少し騒がしい電車内。いつもよりも少し大き目のコソコソ話。  勝がふと周りを見回す、大学生であろう一団は満面の笑顔。その隣は勝と同い年かそれよりも歳上の、中年集団が会社の話であろうか口に手を当てボリュームを抑えているが盛り上がっている。 (終電間際なんてこんなもの)  ここ2年ほど勝は社内超大型プロジェクトで花形部署の課長職を仰せつかっていたため、ほぼ「始発」で出社、「終電」で帰宅の生活だった。そのため極て見慣れた光景である。 (俺も明日っから2週間の休みだ!浮かれてやるぜ!)  勝が所属している会社は大企業である。大企業の管理職に残業代などない。勝も8年前に主任昇格時に残業代という言葉とお別れしている。  部下やパートナー企業には「残業は悪」と言わざる得ない状況下で、管理職が率先して深夜まで残業。笑い話である。苦笑いである。  だが、朝から20時まで会議が、トリプルブッキング、している勝である。皆が帰ってからようやく自分の作業に向き合えるのがやっと、と言う状況も無理からぬ話である。  週末も家族と夕食を食べた後は日付が変わるまで持ち帰ったノートと向き合う。気づけば日付は超えている。  当初は理解を示した妻も半年もたつと苦言を呈してきた。無論勝の体を気遣ってのことだ。「確かにその通り」と勝は週末まで仕事を引っ張らないように注意した。  だが大きな問題が生じてしまった場合は休日も仕事に意識を取られてしまうのは無理からぬことであった。
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