1章:くっ、中世のくせに意外と不便じゃない・・だと

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「仕事を家庭に持ち込むなんて社会人失格だね」  ショッピングモールで買い物の後、カフェで不満顔の妻に言われてしまった。プロジェクト開始から1年経った時のことだ。胸に刺さる言葉だった。しかし、勝は妻の言葉にわずかな、だが致命的なずれを感じていた。  翌日、虫の知らせといってもよい、ずれ、を無視できなかった勝は時間を工面し興信所に妻の素行調査を依頼した。  結果、……知らなければよかった。  1年や2年ではなく結婚前からだった。  ……こっそりと子供たちの遺伝子検査もした。  結果、……知らなければよかった。  勝は長女も長男も愛していた。割り切れるものではなかった。  ……プライベートは弁護士に丸投げした。  結果、……愛していた妻も間男も社会的に抹殺できた。  慰謝料も桁違いにむしり取ってくれた。子供たちの親権は妻で養育費は発生しない。  気が付くと妻の両親と間男の両親が勝の前で土下座し涙を流しながら謝っていた。  気が付くと勝は表情も変えずに涙を流していた。  結論、……もう勝は結婚することはないだろう。  半年後の現在、当時を振り返り上司部下全員声をそろえて「目が怖かった。特に笑っているときの」と言われた。  勝的には真摯に対応していたつもりなので解せない限りだ。  その日から勝は自宅に帰ることはなかった。  もう汚物にしか感じにない元妻の匂いのする家。  いまだ愛情のある子供たちとの思い出の詰まった家。  ……会社から徒歩10分のホテル住まい。現実逃避と言われても勝にはそれしかできなかった。    そんなささくれ立った勝の心、押せば崩れそうなところを必死に踏みとどまっている勝の心にとどめが刺される。  元妻の会社襲撃である。  その頃プロジェクトのリリースに向けた時期で少しの余裕が、勝にはできていた。  それでも1日に30分や20分程度の時間である。  悪いことにその日空いた時間に元妻が会社に訪れた。  悪いことに元妻を知っている後輩がロビーで元妻に会ってしまった。  悪いことに後輩は離婚について何一つ知らなかった。 「せんぱーい、奥さんとお子さんが来てますよ」
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