1章:くっ、中世のくせに意外と不便じゃない・・だと

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「は?」 「ちゃんと第4応接室に通しておきましたよ♪ 深刻な顔してたから早く行ってくださいね」  立ち上がり向かおうとする勝を隣の席に座る後輩がかろうじて止めるが、もはや勝の眼は正常ではなかった。  強引に座らせられた。しばらくすると部署担当役員付きの秘書がやって来て勝を役員室に連行した。  気が付くと勝は何故か夕方から老舗蕎麦屋で呑んでいた。  担当役員は笑顔で勝の取留めのない話を聞いてくれた。  1時間すると役員会で世間話をしたことのある常務が笑顔で現れた。  2時間すると社長と部長が来た。ついでに応接室に通してしまった後輩が青ざめた顔でついてきていた。  会話は勝のことを気遣っている事が精神的に疲弊している勝にも分かった。  嬉しかった。打算があろうが何であろうが素直に嬉しかった。  涙は自然な笑顔と一緒にこぼれた。  そのあと色々な話をした。  この面子で話すようなことではない様な趣味の面など話が弾む。  飲み会が終わると役員以外で風俗へ行く。おっさんなんてそんなものである。   別れるときお礼を言う勝の肩を叩きながら、役員陣の目はうらやましいものを見る目だったのはきっと勝の見違いだったに違いない。  それから半年たった現在。勝は家を売り払い賃貸住まいをしている。ちなみに同棲している。若くかわいらしい女性とだ。  結論から言おう。勝が押し切られたのである。 「結婚することはない」というと「うん」と返される。 「抱くつもりもない」というと笑われた。 「私と一緒にいてどう?」と聞かれたので「楽しい」と勝が答えるとなぜだかそのまま2人で住むマンション探しに連行された。  何より勝は彼女と居ると崩れた心のがれきの下から再び何かが立ち上がってくるような希望を感じていた。あと単純に一緒にいて心地よかった。  長期休暇中の勝は、前半彼女と旅行。後半は自宅でまったり家事でもする予定だ。楽しみな休暇が勝を待っている。  そう、少し浮かれていた勝。
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