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1 この傘を君に
忘れるはずがない。あれは、雪の降る冬の日だった。
ネオンライトに彩られた街並みは変らなくて。空がどんなに暗くても、ビルの看板だけは眩しいくらいに輝いていて目が痛い。
あまり雪の降らない地域なのに、その日は雪が僅かに積もっていて。そんな寒い日に私は、傘を無くして駅の改札口付近で佇んでた。
今日は都会で数センチの積雪の見込み、なんだっけな。都会で雪が積もるのは何年かぶりなんだって、どこかの気象予報士が言ってた気がする。
雪が降るってわかってたのに、朝から雨が降っていたのに、今の私の手元には傘が無い。馬鹿なことをしたなって後悔してももう遅い。
コートのポケットの中ではスマホが振動してる。チラッと液晶画面を見れば、電話がかかってきているんだとわかる。でもその発信者は、今一番話したくない人。
だってついさっきまで会っていたんだもの。その人との別れ方は最悪だった。
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