3 手帳に記した約束

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3 手帳に記した約束

 玄関の傘立てには何本もの長傘が納められている。そのほとんどはデザインや色が好みだからとお店で買った長傘だった。  そんな傘立ての中に一本だけ、傘布に色も柄もないただのビニール傘がある。これだけは私が買った物じゃない。  ビニール傘はあまり好きじゃなかった。  ビニール傘を使うと、第三者に「傘を忘れた人」だと思われそうだから。  変なプライドから、「ビニール傘なんて絶対に使うものか」と思っていたくらい。  けれどそれはほんの四日前までの話。我が家に一本だけあるビニール傘が、私の考えを変えてくれた。  あの雪の日は切羽詰まっていた。  別れ話もそうだったけど、衝動的に行動したら持ち歩いていた長傘を喫茶店に忘れてしまって。  最寄り駅から長傘が買えるお店までは少し距離があるから、仕方なくビニール傘を買い求めた。  結局駅近くの売店ではどこもビニール傘が売り切れていたけれど。  家にある唯一のビニール傘は、雪の日に傘を忘れて困っている私に渡されたものだった。  嫌っていたはずのビニール傘に、私は身も心も救われたんだ。  さらには、何の躊躇(ためら)いもなくビニール傘を渡してくれた男性に、()かれてしまった。  また会えないかなと思っていたら今日、本当に会えたの。  夕方から降り始めた雨に困っていたに遭遇して、折りたたみ傘を貸したんだ。  そしてその時に、メッセージアプリのアカウント――連絡先を手に入れてしまった。
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