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4 三回目は計画的に
奇妙な縁もあるものね。
たった二回、偶然傘の貸し借りをしただけ。それだけなのに、三回目の今日はわざわざ予定を合わせて会っている。
つい二週間前まで名前も知らなかった人と会う。それだけなのに、ドキドキと胸が高鳴るのはなんでだろう。
「折りたたみ傘、ありがとうございます」
「どういたしまして。あのあと、大丈夫でした?」
「はい。お陰様で無事に帰ることが出来ました。ありがとうございます」
隼人が折りたたみ傘を返すために選んだのは、出会った駅の近くにある喫茶店だった。
会ったのは昼食後の午後三時。待ち合わせた駅にやってきた隼人は何故か、スーツを身につけていた。
理由を聞けば、午前中は仕事があったのだという。
土曜日にも仕事がある。「土日に仕事が入る可能性がある」と聞いてはいたけれど、改めてびっくりする。
いったいどんな仕事をしてるんだろう。気になるけど聞けない。
脳裏に過ぎるのは、なぜか最近別れた彼氏――宏光のこと。
人は笑顔で平然と嘘をつき、裏切る。宏光がそうだった。
「愛してる」も「大好き」も、数え切れないほどの嘘の言葉を笑顔で並べ立てる。
そして意味もなく言い訳を並べて、問題が起きたら呆気なく裏切る。
今ここで聞いても、隼人も嘘をつくかもしれない。そんな不信感が拭えない。
「……悩みでもあるんですか?」
「え?」
「いえ、その……苦しそうな顔で何かを考えているようでしたので、もしかしたらと。でしゃばりすぎましたよね。ついこの間会ったばかりだというのに」
隼人が何も悪くないのに、何故か悲しそうな顔をする。その顔を見ているだけで、胸が締め付けられるようだ。
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