295人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
2 再会は雨の日に
いつしか雪は止んで、数センチだけど積もっていた雪はすっかり溶けてしまった。都会に不釣り合いな雪景色はたった二日で終わりを告げる。
また雪が降れば隼人に会えるかもしれない。
相手の名前も知らない当時、そんなくだらない理由で、柄にも無く雪の日を待ちわびるようになった。
今思えば本当にバカバカしい。
雪の日だから隼人に会えたわけではないのに。あの日会ってビニール傘を貰ったのは、ただの偶然でしか無かったのに。
でもこの頃は、些細なきっかけでいいからもう一度会いたい。ただそれだけだった。
隼人に会うことを願い続けたある日のこと。ビニール傘を貰ったあの雪の日から一週間も経っていない時のことだった。
仕事帰りの最寄り駅で、もう一度隼人に会うことが出来たんだ。今度は雪の日とは逆で、彼の方が駅の改札口付近で佇んでいた。
彼を見るついでにと改札口の外に目をやって、なんとなく事情を察する。
外は雨が降っていた。ゲリラ豪雨とまではいかないけど、滝のようなひどい雨。さすがにこの中を傘もささずに歩くわけにはいかないわね。
見たところ長傘を持ってはいないみたい。
折りたたみ傘でもあれば、こんなところで立ち止まる必要もない。むしろ、これ以上悪化する前にって急いで帰るはず。
改札口付近で佇んでることが、彼が傘を持っていないことを証明していた。
「あの……大丈夫、ですか?」
スーツ姿で一人佇む彼に、雪の日にかけられた言葉と同じものをかけてしまう。
その声に気付いてふり返った彼は、私に気付いたのか目を見開く。そして、困ったように苦笑いをした。
「あの時の方ですね。あのあと、無事に帰れました?」
「お陰様で。ところで、どうされたんです?」
「実は、財布を家に忘れてしまったんですよ。折りたたみ傘も忘れてしまい、電子マネーの残金も無くて……どう帰ろうかなと」
今日は、午前中は晴れていた。でも時間が経つにつれて空は雲に覆われて、今は雨が降ってる。
ゲリラ豪雨とまではいかないけれど大粒の雨だから、この中を傘をささずに帰るのも辛いはず。まるで、この前の雪の日の私みたいだな。
最初のコメントを投稿しよう!