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「おい、青斗。知ってるか!? 花乃が」
「あー、其の話っすけど、オレと花乃、別れたんすわ」
わざわざ言う事ではないと思っていた為、オレと花乃の関係を知っている友人達には別れた話をしないでおいた。中には共通の友人も少なくない為、花乃に別れの理由を詰め寄られては花乃に迷惑が掛かると思ったからである。
下世話な好奇心であれば尚の事、縦しんば友人であるオレの事を想っての行為であっても花乃に詰め寄られでもしたら迷惑極まりない。加えて話が何処かから漏れ出て花乃の事を悪く言われるのも忌避したかった。
其れ故言わずにいたのだが、今こうして焦った風に切り出す友人はそうした心配が無用な相手であるし、幸い周囲にオレ達以外人気はない。
たとえば花乃が誰か他の男、或いは女と親し気に歩いているシーンでも目撃したのやもしれないが、最早オレは花乃の交友関係に口出し出来る立場ではない。そもそも花乃は最初からオレのへの好意を持ち合わせてはいなかったのだから、他に恋人が居ようと不思議ではないのだ。まるきり傷付かないと言えば嘘になるが。
故にそうした事を息を切らして迄伝えに来てくれた友人には別れた事くらいは伝えておこうと思っての発言であったが、友人の方は意外そうな驚愕を一瞬だけ浮かべた後、悲痛の色を窺わせた。
己に都合良く深読みし過ぎやもしれん。
思いながらも其の顔は、別れた途端元恋人が新しく恋人を作っていた男への同情と言うには生温い様に思えてならず。
「……そういうんじゃねぇよ」
悲痛な面持ちのまま如何にかこうにか吐き出された言葉の続きを、オレはいっそ耳を塞いで。気でも違えたかという程の叫び声を上げて。聞きたくないと逃げ出したい衝動にさえ駆られた。
其れを辛うじて堪え、「花乃が如何したんすか?」言葉の続きを促した。
「死んだんだよ。花乃。自殺した」
聞きたくない。果たして其の予感は的中した。告げられた言葉にオレの脳内はあの日の様に働きを止める。
最早余計な事を考えている余白もなく、壊れたラジカセの如くオレの脳内は同じ言葉を反芻する。死んだ。誰が。花乃が。花乃が死んだ。自殺した。
死など、平和な日本に於いても、其れなりに有り触れている。事故。自殺。事件。病気。寿命。現実に於いても創作物に於いても。
あくまで自身の身近でなければ無関心というだけであり、死と言う概念は存外身近を漂っている。
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