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講習会当日
コスプレ美少女を描く企画は拙いという山田太郎の助言もあり受講内容に修正が入った。生徒自身の未来図をCG化する流れになった。それでも学校側から不安があり教師たちもリハーサルを見学したい旨の申し入れがあった。
それで本番を翌々日の日曜に延期し女子部の1クラスだけで予行演習をした。
問題はそこで起きた。
同性愛の発覚である。女の子同士は閉じた空間で濃厚接触する。どうせあってもそれは宝塚少女歌劇的な友愛だろうと学校も高を括っていた。タブレット端末の操作を実習していたあるグループがスカートの中に手を入れていたのだ。すぐさま事態は教育委員会に報告され発覚した生徒は退学処分となった。
ショックを受けた学校側は有害なデジタルコンテンツが誘引したのだろうと山田太郎に詰め寄りデジタル改革に責任転嫁しようとした。ところが用いられていた教材が日本の戦国武将と歴史年表であり、女生徒が諸国大名のイメージを同級生に重ねていた事が発覚するに至り学校は返答に窮した。もっともこの様な文化は学内女子たちの間で長年に渡って潜在しており、むしろデジタル機器によってクローズアップされたと山田太郎は抗弁した。理想論で曇っていたのは先生がたの眼鏡だ、と。上へ下への混乱のなか教職員会議が重ねられ、喧々諤々の結果、女の子だけにしておくのもどうかという話になった。頭の古い学校側は同性愛と言えば筋肉隆々の絡み合いといった固定観念に凝り固まっていたようだ。山田太郎は「これを認知バイアスと言います」、と一刀両断した。
そのような次第で。当日は保護者を招いて学校のデジタル改革を説明する方針になった。さすがに父兄参観日に不純な行いはあり得ないだろう。
※※※
「はぁ。」
山田太郎は、大きくため息をついた。「絵を描いてくれと聞いたのに、なぜこんなに疲れることをするんだ?」と彼は思った。まず自分の進路を具体的に設計する。何年何月にはどのような職に就き如何なるスキルアップをするか。何歳ごろに結婚し年収は幾らぐらいを目標にするか。その綿密な計画の要所要所をイラスト化する。
「ああ。でも、母さんは何と書いてるかも話してくれないから、何も教えてくれない。」
山田仁朗は母親の遺作をもう一度ひも解いた。若かりし頃の母親はただ微笑むばかりだ。
「はぁ。そう考えると腹立つなぁ…。」
彼はそう言うと、もう一度ため息をついた。
「そうだよなぁ。絵は描いて欲しいって言ったのにか。」
講師補佐役の吉田健也が様子を見に来た。
「いや、もう少し丁寧な文章で書かれた方が…。」
投げやりな箇条書きを指摘されて山田仁朗は黙りこんでしまった。
「…」
「…。」
しばらくにらみ合いが続く。
「あああああああ~~ん。」
山田仁朗は、吉田健也との会話をあきらかに嫌がっている。母親像と対峙すると父親に言ってはみたものの、思春期の男心はゆれうごく。しかたないので吉田健也はWEB小説投稿サイトの創作論を引用して助言した。
「山田君、古典的だが桃太郎を模倣してみるんだ。君の最終ゴールは幸福な家庭、おじいさんとおばあさんと孫がいる世界だ。その前に立ちはだかる難問、それが鬼ヶ島だね。小説で言えば起承転結の転だ。鬼が島を攻略するためにはお供が必要だね。犬は忠実な聞き役、友達だ。猿は君に知恵を授け、機動的に立ち回ってくれる上司、そして雉は第三者目線で君を俯瞰し、高みへ導いてくれる…」
十分、いや、それよりも長く聞いていた。その斜め右後ろの席で吉田美咲は彼女のノートに、ペンを走らせる。
「あれ?まだ描いて無いみたいだね。」
講師の山田太郎が傍らに就いた。
「はあ…。」
仁朗とどっこいどっこいの進捗だ。
「それ、いつ描くの?」
「さっきまで描いてたから、あと少しで今日の内に仕上げる。」
「へぇ、そうなんだ。」
「だから、もう少し丁寧に書いてくれ。」
「そ、そっか…。」
投げやりな態度は仁朗そっくりだ。
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