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夏色に染まる百合
彼らの目的は様々な理由により転入する女子を探し出すこと。入学式のどさくさに紛れて幾らでも出会いのチャンスはありそうだ。
そう思うだろう。素人はそこでドツボにはまる。
まず男女で入学式の日時が違うしオリエンテーション合宿で女子は純潔教育を徹底される。先輩男子が登下校中に後輩女子から顔を赤らめて告白されるとか、アニメの世界だ。
そこで染まってない転校生を狙う。問題は事前情報とタイミングそしてスピードだ。どこの学校から誰が転校してくるか。男子高生間のSNSでバッチリ共有済み…なんてことはない。その進学校で携帯電話が禁止されている。
連絡は校内放送やホームルームで十分だ。それで足りなければ保護者に通達が行く。男子生徒は集団外出や奉仕活動の隙を狙ったがことごとく退学者リストに名を連ねていった。
男日照りに悩むのは女生徒も同じであの手この手で情報をゲットしようとしていた。
手口はないこともない。
「ねぇねぇ。奈津美ちゃんには弟さんがいたよね?」
二年三組の太田伊織が尋ねた。
「うん、中学生だけど」
二年五組の川田奈津美がうなづく。
「奈津美ちゃんにお願いがあるの。弟さんの学校にうちの高校を受験しそうな子はいないかしら」
「さあ、いるかもしれないけど、うちは進学校だよ。難しいんじゃないの」
「受験志望者がいないかどうか聞いてみてよ」
「弟に聞いてどうするの」
「もしかしたら受験志望者がうちの高校を見学しに来るかもしれないじゃない」
「あきれた。中学生に手を出すの?」
「でも来年合格したら新1年生じゃん。私ら3年と交際するチャンスがあるかもよ」
。そんときに奈津美ちゃんはきっと誰と付き合うかなんてわかるよ」
奈津美が苦笑した。夏の暑さに疲れたようだった。
「そういうのって彼氏か彼女のプランとかで選んでも無駄じゃない?」
「奈津美ちゃんがいいなら、そうかもしれないけど、うちは自分から探すのは諦めたわ。うちの出戻り姉もそうよ。お腹の子が生まれてからたぶん探してもいないと思うよ」
そうなのだ。奈津美は自分の弟にあまり連絡を取りたがらない。進学してから疎遠に拍車がかかった。厳しすぎる校則のせいで親族としか連絡がとれない。親が遠方に行っていると言ったことがある。母親の実家に預けたとしても、奈津美に連絡がつかないだろう。
だからせめて誰かに連絡しておいたほうがいい。その人が奈津美に話しかける時は、いつものことだ。
「ねえ、あたしも奈津美ちゃんに相談してみようかな」
伊織が言った。
「相談? 何でも聞いて」
「その前に、奈津美ちゃんにはひとつお願いをさせて」
「お願い?」
伊織は悩みながら言う。
「うん。もし奈津美ちゃんが望むなら、その彼氏を紹介して」
「彼氏を紹介したら何をするかしら」
「私が奈津美ちゃんの彼氏になってあげるよ」
「えっ」
奈津美ちゃんは、目を見開いて驚く。
「これは告白よ。その彼氏に会うことができるかもしれないの」
「あ、それはちょっと恥ずかしいわね」
奈津美ちゃんは、そっぽを向いて答える。
「本当は、奈津美ちゃんの彼氏が誰なのか教えてよ」
「えっ、誰かしらね。それは内緒」
「秘密でお願いね。それなら、私には内緒のお願いだから」
奈津美ちゃんの彼氏。それは誰だ。
夏の日は、もうすっかり沈んでいる。
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