ニセITセミナー

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ニセITセミナー

さて校則が異常に厳しく、こと男女交際に関しては修道院ばりの隔離政策をとる学校である。携帯電話の所持も男女間の私語も禁止。全寮制。 これをカノデリはどうやって突破しているかと言えばハイテクである。 とはいってもIT世界では古典に部類する。 ステガノグラフィーと言う技術が四半世紀前からあるのだ。これはソフトウェアの違法コピーを闇で配布する手口として広まった。ファイルを無数に分割し暗号化する。そして画像ファイルに偽装する。 どうやってかというと、本物の画像に、色や明るさの違い、つまり差分情報として乗っけるのだ。人間の眼には照明不足やピンボケに見える。カノデリはこれを配信するWEBサイトを外部に持っていた。もちろん闇のサーバーだ。 学校には情報学習の授業があり、教師監視のもとで校内サーバーにアクセスする。吉田はDNSサーバーをひそかに書き換えて闇サイトに接続するようにしていた。 そして授業で使うホームページそっくりの偽装ページに誘導しステガノグラフィーを施したニセ画像ファイルをブラウザキャッシュにダウンロードさせる。 そこに恋文が混じっているというしかけだ。 暗号ファイルは課題の誤回答としてプリントアウトされる。教師には「こいつは出来の悪い課題ばっかり提出する奴だな」としか思われない。 しかし、カノデリ部にファイルを持ち込めばバッチリ復号できる。 吉田は放課後に勉強を教えるという名目で部室のパソコンを使っていた。 いくら何でも男子同士の恋バナまで規制しないだろう。学校が立ち入れば同性愛を間接的に認めた事になる。吉田は暗号文を目視で解読し返信も本人の目の前で代筆していた。 「そんな江戸時代みたいな交信をしていたのか」 事情を聴いた山田太郎はほろ苦い思いをした。そして「デジタル教科書は何を使っている? 勤勉探究社か。解った」と言って正規のレンタルサーバーを用意してくれた。山田のIT会社は負荷分散のためにミラーサイトの運営を請け負っているという。カノデリ部は偽装ファイルを堂々と裏取引できるようになった。また山田の売り込みでタブレット端末が配布されることになった。もちろん校内LANアクセス限定、持ち出し禁止である。 はんこ廃止とペーパーレスという時代の流れに学校は逆らえない。 「今度、タブレット端末の講習会をやる」 山田は合法的に男女生徒が集う場所を設けた。
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