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エルガンド帝国首都、アリスベン。雲ひとつない快晴の空に向かって超高層ビルが立ち並び、街路樹の鮮やかな緑色とコントラストをなす様は、国境外の戦闘の気配を微塵も感じさせない。行き交う人の首にはカラフルなウェアラブル端末が巻かれ、生体電気を利用して脳に直接映像を見せている。 そんな、一見すると和やかな光景の中で帝国議会制式の紺青のスーツに身を包むユーカリアは小さくため息をついて、眼前のホロウィンドウが映すニュースに目を落とした。 『本日も戦局は我がエルガンド帝国が優勢であり、我が国の誇る高性能無人機と正規部隊の前に亜人種たちはなす術がありません。このままいけば、帝国が大陸全土を支配する日も近いと言えるでしょう。では、本日のニュースです』 にこやかな笑顔で原稿を読み上げるキャスターの女性も、そうですねと首肯するアナウンサーの男性も、耳は丸く、体毛は薄い。羽が生えていたり尻尾が生えていることは決してなく、髪の毛の色こそ様々だが、染料によるもので地毛は黒髪だ。ニュースキャスターたちだけではない。ユーカリアの目の前を和気藹々と歩いてゆく女学生の集団も、作業服を着ながら走りゆく青年も、杖をつきながら歩く白髪の老夫婦も同じ外見的特徴で統一されている。  それもそのはず、エルガンド帝国は人類種のみで構成された単一国家なのだから。 今から三百年前、大陸全土に散らばっていた人類種は魔法適性の低さから厳しい生活を強いられていた。激しい差別が各地で横行し、職業選択の自由などはあるはずもなく、生活のために一般奴隷に身を落とす人類種は数知れず。いつの間にか『人類種とは奴隷種族である』とまで言われるほどの状況に陥っていた。 『人』の名を持たない概念的存在である精霊種スピリトや星憑種スターリーなどは雲の上の存在であり、同じく『人』ののを冠する魔法適性に優れる森人種エルフや扱える魔法は少ないものの、高度な技術を有する地人種ドワーフ、優れた五感と圧倒的な身体能力を誇る獣人種アニマロイドを始めとする亜人種にすら及ばない脆弱な人類種は絶滅寸前までその数を減らし、散発的に起こる反乱もすぐに鎮圧されていた。 そんな状況を見かねた人類種の一人が大陸の端に人類種のための自治区であるエルガー自治区を創設し、大陸全土に散らばっていた数少ない人類種が集まった。  
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