神様の背中まで

3/7
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 彼は地区大会の度、あの選手を探した。県大会、地方大会も見に行った。自校の監督にわざわざ調べて貰い、あの選手が二学年上であること、非常に優秀な高校へ入ったことを知った。彼の学力からは到底届かないレベルの高校ではあったが、彼は諦めるつもりなどなかった。同じチームで、あの人の背中を追いかけたいという意思は非常に強いものだった。苦手だった勉強も苦ではなくなった。家族から一体突然どうしてしまったのかと聞かれても、彼は笑って答えなかった。恐ろしいほどの集中力を発揮し、無事高校へ入学した彼は直ぐサッカー部へ入部届けを提出した。 「いない……?」  初めて練習を見学した日。彼は呆然と立ち尽くした。数十名居る部員、一人一人に目を凝らしたが、やはり、あの人の姿がない。 「あの、すみません。こちらに、相山先輩という方はいますか?」  見学に訪れた新入生の相手をしていたマネージャーの先輩に、彼は声を掛けた。彼女は困ったように笑い、そして首を横に振った。 「相山くんはね、辞めちゃったの。つい先月」 「辞めた?」  ようやく辿り着くことができたと胸を躍らせ、きらきら輝いて見えたグラウンドが灰色に見える。 「何人目かなあ、あいつのこと聞かれるの」  思わずベンチから立ち上がった彼を見て、先輩はため息をついた。その気安い呼び方から、彼女も三年生なのだろうと思われた。大人びた横顔がじっとグラウンドを見つめている。かつてあの人がいた風景を思い起こしているのかもしれない。 「膝の怪我で、全治一年って言われてね。リハビリしながら練習に参加……というか、見学することも考えたみたいだけど、まあ、受験生だしね」 「そう……ですか」 「相山はもういないけど、他にもなかなか凄い先輩はいるから。個人的には辞めないでくれると嬉しいな」  彼は呆然としてその言葉を受け止めた。頭の片隅で、きっと自分のように彼に憧れてここを訪れて、辞めてしまった奴が既に何人かいるのだろうと思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!