君の後ろ

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

君の後ろ

風に揺れるカーテンが、机の上に影を作って邪魔だ。 窓から入って来る光のせいで、教科書が照らされて読みにくい。 何度席替えをしても窓側の席になるのは、俺の普段の行いが悪いからなのか…。 「おい、外ばかり見てないで集中しろ」 上から先生の声が降ってきたので、視線を上げる。 怒った顔をしている先生は、ちょっと好き。 寝起きの猫が睨んでくる時の顔に似ているから。 「……なんだ?」 「……いえ、なんでも無いです」 笑いを何とか咬み殺すと、一度咳払いをして黒板を見た。 すると、今まで視界に入っていなかった景色が見える。 目の前には黒くて真っ直ぐな髪。 肩甲骨より少し下まで伸びているその髪は、彼女の頭の動きに合わせてたまに揺れる。 何度席替えをしても彼女が俺の前なのは、俺が彼女の事を好きだから? 「プリント配るぞー」 先生が廊下側からプリントを配っていく。 一番前に座っている生徒が、一枚取ると後ろに回してくる。 彼女が俺にプリントを渡すために軽く振り返ると、髪からいい匂いがする気がするし、何より髪から横顔がチラ見えするのがエロい。 肌は白くてふわふわしてそうで、自分の目がどうしても追ってしまう。 「はい、どうぞ」 「…ありがと」 彼女は綺麗だけど、花屋で売っているバラのような綺麗さじゃない。 もっと素朴で、もっと可憐だ。 でも道端に咲いているタンポポのような素朴さじゃない。 もっと優雅で、もっと秀麗だ。 彼女をこんなにまじまじと見られるなんて、後ろの席は特等席だと思う。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 次の日、俺はいつも通り登校した。 そして、自分の席に座ると自分の目を疑った。 いつもあった景色がそこに無かったから。 なぜ?なぜ言ってくれなかったんだろう。 席替えの度に、また後ろだねって笑ってくれていたじゃないか。 陽に照らされた君の横顔と、風に遊ばれている君の髪が大好きだった。 目の前にいる好きだった彼女じゃない彼女が、こちらを見る。 「…どうかな?」 そう言って、少し赤くなった顔で俺の顔を見た。 おもむろに髪の毛を耳にかける。 「…うん」 それ以上の言葉が出てこない。 だってあまりにも、衝撃的だったから。 彼女はボブになってしまった。 俺の大嫌いな、キノコ頭みたいなボブに。 「似合って、ない?」 不安そうな彼女に、俺は微笑みかけた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!