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君の後ろ
風に揺れるカーテンが、机の上に影を作って邪魔だ。
窓から入って来る光のせいで、教科書が照らされて読みにくい。
何度席替えをしても窓側の席になるのは、俺の普段の行いが悪いからなのか…。
「おい、外ばかり見てないで集中しろ」
上から先生の声が降ってきたので、視線を上げる。
怒った顔をしている先生は、ちょっと好き。
寝起きの猫が睨んでくる時の顔に似ているから。
「……なんだ?」
「……いえ、なんでも無いです」
笑いを何とか咬み殺すと、一度咳払いをして黒板を見た。
すると、今まで視界に入っていなかった景色が見える。
目の前には黒くて真っ直ぐな髪。
肩甲骨より少し下まで伸びているその髪は、彼女の頭の動きに合わせてたまに揺れる。
何度席替えをしても彼女が俺の前なのは、俺が彼女の事を好きだから?
「プリント配るぞー」
先生が廊下側からプリントを配っていく。
一番前に座っている生徒が、一枚取ると後ろに回してくる。
彼女が俺にプリントを渡すために軽く振り返ると、髪からいい匂いがする気がするし、何より髪から横顔がチラ見えするのがエロい。
肌は白くてふわふわしてそうで、自分の目がどうしても追ってしまう。
「はい、どうぞ」
「…ありがと」
彼女は綺麗だけど、花屋で売っているバラのような綺麗さじゃない。
もっと素朴で、もっと可憐だ。
でも道端に咲いているタンポポのような素朴さじゃない。
もっと優雅で、もっと秀麗だ。
彼女をこんなにまじまじと見られるなんて、後ろの席は特等席だと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、俺はいつも通り登校した。
そして、自分の席に座ると自分の目を疑った。
いつもあった景色がそこに無かったから。
なぜ?なぜ言ってくれなかったんだろう。
席替えの度に、また後ろだねって笑ってくれていたじゃないか。
陽に照らされた君の横顔と、風に遊ばれている君の髪が大好きだった。
目の前にいる好きだった彼女じゃない彼女が、こちらを見る。
「…どうかな?」
そう言って、少し赤くなった顔で俺の顔を見た。
おもむろに髪の毛を耳にかける。
「…うん」
それ以上の言葉が出てこない。
だってあまりにも、衝撃的だったから。
彼女はボブになってしまった。
俺の大嫌いな、キノコ頭みたいなボブに。
「似合って、ない?」
不安そうな彼女に、俺は微笑みかけた。
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