第1章

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 どうやら未菜が、ずっと側で看病をしてくれていたようだ。彼女のことだ。きっと反対する川野の言葉を押しのけてでも、瀬里花の側にいてくれたのだろう。彼女にはその強さがある。だからこそ、同性にも好かれるのだ。 「うん……ここは?」 上体を起こし、辺りを見回す瀬里花。白いペンキで塗り固められたであろう無機質の壁が、ベッドの上の瀬里花を隔離するかのように囲んでいた。 「えっと昔あった宿直室だって。今はセキュリティーとかしっかりしてるから、もう放置されて使われてないみたい。だから、ほら、埃っぽいでしょー? それにベッドも硬いし、病院からそのまま持ってきたみたいだよねー」  未菜の大袈裟ともいえる言葉に、ゆっくりと笑みを作る瀬里花。確かに瀬里花の華奢な身体は、硬いベッドに反発するかのように痛みを覚えている。それでもありがたいと思うのは、こんな過去の遺産であっても、ずっと瀬里花の身体を支え続けてくれたことだ。 「でもさ、瀬里花って、本当軽いんだね。女三人でここまで運んだんだけど、ダウンジャケットみたいに軽くてびっくりしたよ」  確かに背は未菜より十センチほど高いし、体重も恐らく彼女よりは二キロは軽いと思う。もっとも、その体重差の大半を埋めるのが、未菜の武器である大きな胸なのだけれど。 「未菜は胸あるからだよ。それ十キロくらいあるんじゃない?」 「ないない!」  笑いながらも、即座に否定される瀬里花。そう、瀬里花もそれがわかっていて、あえて意地悪を言ったのだ。実際、未菜クラスの大きさ(推定F)の胸でも、重くても一キロちょいから二キログラムがいいところだろう。残念なことに、瀬里花のそれはせいぜい二百グラムだった。 「他のみんなは研修してるの?」 「流石にねー。査定は大変みたいだから、みんな必死で机上査定してる」  机上査定とは何だろう。瀬里花の表情を読み取ったのか、未菜がすぐに教えてくれる。 「机上査定というのは、あらかじめ文章で査定に必要な情報が知らされているの。どこどこにカードサイズの傷があるとか凹みがあるとか、走行距離がいくらとか基本価格がいくらとかね。それを査定の教科書を見ながら、減点などをしていって、最終的な査定金額を出すんだよ。今みんな黙々と練習問題やってるとこ」
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