終幕

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「自分の父親だから弁護してる、とか思われるのも嫌だけど、父上は認める振りをするしかなかったんだろうぜ」 「どういう意味よ!」  確認する声が、キンと尖るが、どうしようもない。  上がり框に座り、片膝を立てた桂城君は、そこに頬杖を突いてソルファを見上げた。 「お前だって、知ってるだろ。この国の国是は、『儒教』だ。儒教では、親や君主を大事にするのが何よりの美徳だって教えてる」 「そうね。だから?」 「父上は、お祖母様の息子だ。儒教の教えでは、親を罰することはできない。けど、自分の目の前で真相が明らかになった以上、誰かを罰することなく終わりにもできない。民の父って立場なら尚更だ。父上には幸いなことに、コン尚宮には、先代王妃様を害する理由も動機もちゃんとあったし、毒を入れたのも彼女自身だから、犯人をでっち上げる必要もなく事件を収束できる訳だしな」  尚も反駁しようとして、ソルファは結局口を噤んだ。  反論の余地などない。その通りだ。  先代王妃は、ひどく嫉妬深い女性だった。そこまでは、ソルファも聞き及んでいたが、どんな振る舞いをしたかまでは、よく知らなかった。  王妃の座にあった頃、トンフィは、新しく女官が王の寝所に召される度に、承恩尚宮となった女性に毒を送ったり、呪いの人形を居所の傍の地面へ埋めたり、といったことを、日常的に(おこな)っていたらしい。  その魔の手は、今回、首謀者として処罰されることになったチユの親友にも及んでしまった。  懐妊した親友は、程なく淑媛の宣旨を受け、側室に昇格したが、ある時先代王妃が盛った毒で、赤子を流産し、自身も命を落としたという。 『許せなかった……! 親友を殺しておいて、王妃というただそれだけの理由で何の処罰も受けずにいるあの方を、どうしても許せなかった! 世子様の母君だという理由で、追放で命を長らえているあの方が、どうしても……!』  大妃の宮に呼び出され、泣き崩れたチユを、ソルファは頭から責めることができなかった。
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