64人が本棚に入れています
本棚に追加
立場が違えば、実行できる環境であれば、今頃ソルファだって大妃を殺している。
「……どうしたらいいの……」
いつしか、涙が溢れていた。
胸元を鷲掴む。
「こんなの全然、ユクファの仇なんて取れてない……コン尚宮様が処刑されたからって何になるのよ」
罰を受けるべき人間が、高い地位や身分を持っているという理由だけで、その罰を免れる。
そんな理不尽に対するもどかしさは、これまでにも味わってきた。しかし、今回ほど、身が焦げるような憤りを感じたことはない。
「悔しいッ……!」
絞り出すように言って、長衣に顔を埋めた直後。
温もりが肩に回って、ソルファは瞠目した。
「……分かる」
耳元に、優しい声音が落ちる。
「痛いほど理解できる。俺だって同じだ。できることなら、父上もお祖母様も殺してやりたい」
「桂城君、様」
「だけど、お前まで罪人になって殺されたら、俺がユクファに会わせる顔がない。怒りを忘れろとは言わない。けど、ユクファの為に、堪えてくれ」
「……何よ、それ。結局自分の為じゃない」
弱々しく反論しながらも、ソルファは桂城君を押しのけようと思えなかった。
「自分がユクファにいいカッコしたいってだけでしょ」
「否定しねぇよ」
クス、という小さい笑いと共に、頬に柔らかく何かが掠める。
瞬間、弾かれるように彼の胸を押すが、彼の手はソルファを離さなかった。
「ちょっ……急に、何、今……今の、って」
頬を掠めたものは、――もしかしなくとも、唇ではないだろうか。
そう意識した途端、涙は引っ込み、頬に熱が上る。
しかし、彼のほうも、どこか呆けた顔をしていた。
「……いきなり唇にするよりマシかと思って」
「そっ、そーゆー問題じゃないでしょ! やっぱり桂城君様、勘違いしてらっしゃいませんか!? あたしはユクファじゃない!」
「知ってるよ、言ったろ。顔見れば分かるって」
言われて、熱も照れも瞬間的に引っ込んだ。
「……なら、何ですか。それでもよく似てるから、身代わりにしようってことですか?」
最初のコメントを投稿しよう!