終幕

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 立場が違えば、実行できる環境であれば、今頃ソルファだって大妃を殺している。 「……どうしたらいいの……」  いつしか、涙が溢れていた。  胸元を鷲掴む。 「こんなの全然、ユクファの(かたき)なんて取れてない……コン尚宮様が処刑されたからって何になるのよ」  罰を受けるべき人間が、高い地位や身分を持っているという理由だけで、その罰を免れる。  そんな理不尽に対するもどかしさは、これまでにも味わってきた。しかし、今回ほど、身が焦げるような憤りを感じたことはない。 「悔しいッ……!」  絞り出すように言って、長衣に顔を埋めた直後。  温もりが肩に回って、ソルファは瞠目した。 「……分かる」  耳元に、優しい声音が落ちる。 「痛いほど理解できる。俺だって同じだ。できることなら、父上もお祖母様も殺してやりたい」 「桂城君、様」 「だけど、お前まで罪人になって殺されたら、俺がユクファに会わせる顔がない。怒りを忘れろとは言わない。けど、ユクファの為に、堪えてくれ」 「……何よ、それ。結局自分の為じゃない」  弱々しく反論しながらも、ソルファは桂城君を押しのけようと思えなかった。 「自分がユクファにいいカッコしたいってだけでしょ」 「否定しねぇよ」  クス、という小さい笑いと共に、頬に柔らかく何かが掠める。  瞬間、弾かれるように彼の胸を押すが、彼の手はソルファを離さなかった。 「ちょっ……急に、何、今……今の、って」  頬を掠めたものは、――もしかしなくとも、唇ではないだろうか。  そう意識した途端、涙は引っ込み、頬に熱が上る。  しかし、彼のほうも、どこか呆けた顔をしていた。 「……いきなり唇にするよりマシかと思って」 「そっ、そーゆー問題じゃないでしょ! やっぱり桂城君様、勘違いしてらっしゃいませんか!? あたしはユクファじゃない!」 「知ってるよ、言ったろ。顔見れば分かるって」  言われて、熱も照れも瞬間的に引っ込んだ。 「……なら、何ですか。それでもよく似てるから、身代わりにしようってことですか?」
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