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懐かしい鍵をポケットから取り出し、ゆっくりと鍵穴に差し込んだ。
クルクルと一周鍵をまわすと“カチャッ”と小さな音が鳴る。
そっと取っ手に手をかけて右に力を入れる。
“ガタガタ”と音を立て、私をあの頃の時間へと迎え入れてくれる。
そっと玄関に立ち入った。
目の前には、高い上がりかまちと大きな踏み石がある。
懐かしい。
何時も、この踏み石に蹴散らすように靴を脱ぎすて祖母に怒られた。
そんな事を思い出しながら、その踏み石の影に視線が止まった。
あの頃の様に声に出してみた。
「だだいま。お祖母ちゃん」
祖母のつっかけは、ただそこに在り続けただけだった。
“おかえり”
そう言って迎えてくれる人は、もうここには誰も居ない………
一頻り家の中を見て歩いた。
祖父と祖母の寝室。
お風呂場。
台所。
居間。
縁側。
そして、私の部屋。
その場所場所の想い出が、記憶を探すこと無く浮かんでくる。
祖父の優しい眼差し。
祖母の皺だらけの優しい笑顔。
そして、すねて、笑って、泣いて、でも最後に浮かぶのはやっぱり私の笑ってる姿を優しく見つめてくれる祖母と祖父の顔。
視界が滲むのを首を振って止める。
“泣かない”
この家での最後の私は
…………笑顔で在りたいから。
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