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あれから俺は、全ての神事を放棄していた。
“人間が好きにやるなら俺も好きにする。
俺は人間に振り回されたりしない。”
“勝手に神に届かぬ願いを賽銭と共に置いてゆけ。願いなど叶えてやるものか”
そんな思いに囚われていた。
神様廃業宣言をしたものの、どうする事も出来ない俺は、日がな社殿の屋根に寝っ転がっては、閑散とした境内のぽつぽつと訪れる参拝者を眺めていた。
(無駄だよ………)
心で悪態を吐いていた。
今は[神無月]神様は皆出雲大社の寄り合いに出かけている。
人間が勝手に変えてしまった暦で、ばらばらになりがちだった神の集会も10月に定着していた。
なのに人間は、そんなことも知らずに空っぽの社に参拝に来てお願いをする。
神無月すら忘れ去る人間は【願い】の本来の成就の姿すら忘れ去っている。
神への願いは一つだけ。
神が叶えるのも一つだけ。
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