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社の前で篭を下ろし、一礼して鈴緒に手をかける。
“カラン……カラン”
青年は、鈴を優しく鳴らす。
二礼二拍手。
そして願いを唱える。
俺は、少し離れた場所からその姿を見ていた。
彼の願いとはどんなものなのか興味が湧いたのだ。
耳を澄ませた。
“リーンリーン…………”
“えっ………?”
俺は、更に意識を彼に集中させた。
“リーン………リーン”
聞こえるのは、あの涼やかな鈴の音のみで彼の願いは聞こえては来なかった。
青年は願いを告げること無く深く一礼をしすると、篭を手に取りスタスタと歩きはじめた。
そして、境内の片隅に篭を置き箒を持ち社殿周りの掃除を始めたのだ。
篭の中から取りだした、ハケの様な小さな箒で社殿の柵の埃を払っていく。
落ち葉や参拝者が落としたゴミを拾い集めて、持ってきた篭に入れていく。
彼は黙々と掃除を続けた。
白狐達の社周りまで綺麗に掃除をしてくれた
既に二時間が経っていた
彼は全ての社に“礼”を尽くし
深く頭を下げて手を合わせる
が、聞こえててくるのはあの涼やかな鈴の音
どの社のどの神にも彼は【願い】を唱える事が無かった。
白狐はそんな彼に声をかけた
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