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「おい、お前この神社の者じゃ無いよな。
何してるんだ?」
俺の声に青年が振り返る。
「掃除だよ。
君こそ、さっきからずっと見てるよね?
暇なの?」
俺の存在に気付いてたらしい青年は、手を止めずに答える。
「俺は、神主の親戚で狛だ。
初めて見る顔だから見てたんだよ。」
その言葉に青年は手を止めた。
「ああ……、別に怪しい者じゃ無いよ。
俺は、三神弓弦。
この春から、こっちの大学に通い始めたんだ。
この町の護り社に、日頃の御礼に掃除をさせてもらってるだけだよ」
彼はそう告げて掃除を続ける。
「頼まれたのか?」
「いや……別に」
「何か叶えたい願いでもあるのか?」
俺の問い掛けに、一度手を止め振り返りながらも、答えもせずにまた掃除を始める彼にその行為が無駄であることを伝えた。
「“願い”が有るならその掃除は無駄な奉仕だな。今は【神無月】だ。
その奉仕を見届ける神は不在の月だよ」
その言葉に、彼は大きなため息を一つ吐くと、今度は小さく笑う。
「フッ……別に……
神頼みするほどの願いは無いから問題ない。
それに……
見届けて貰う為に掃除をしている訳でも無いからね。だから今なんだよ」
そう言うと、又黙々掃除をはじめる。
「えっ?……“だから今”?」
彼の言葉の意味が解らず聞き返していた。
「神がお出かけの時の方が、迷惑を掛けずに掃除出来るだろう。
1年に一度の旅から戻られた時に、綺麗にしてお迎えしようと思っただけだよ」
続く彼の言葉も、俺には信じることが出来なかった。
“三神弓弦”が何を求めて何の為に、今俺の目の前に居るのかが知りたくなった。
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