帰省

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「もう、いいんかい?たんとお食べ」 おじさんは、居間のテーブルいっぱいに並べられた料理を目で指して勧めてくれる。 だけど、既に普段の三倍は食べてしまった私。 「もう、お腹いっぱい……」 はち切れそうなお腹を撫でて見せた。 「おばちゃんのお料理が美味しい過ぎて食べ過ぎちゃった」 笑って伝える私を、優しい二つの笑顔が見つめている。 「そうかい?おばちゃんに作れるのは田舎料理ばかりだから、翔子ちゃんには物足りないじゃなかったかの」 ちょっと心配そうな顔で聞いてくるおばちゃんの言葉に、首を振りながら私の本当の気持ちを伝えた。 「全然。それどころか嬉しかったよ。 とっても美味しかったし、お祖母ちゃんの味に又出逢えたんだもん」 テーブルに並べられたのは、破竹の煮物やわらびやキノコがたっぷり使われた炊き込みご飯のおにぎり。 山で採ってきたウドや山菜の天ぷらにつくしの佃煮。 そして庭の鶏小屋で今日生まれたであろう卵を使った甘い卵焼き。 どれもこれも、この土地の人たちが春夏秋冬の山の恵を戴き、季節を楽しみ保存して次の季節の糧にしてきた物ばかりだった。 都会では、滅多に見ることのない食材が食卓を飾る。 「私……お祖母ちゃんの作ってくれるご飯が大好きだったの……」 私の言葉に、おじさんとおばさんは少し戸惑った様な表情を浮かべる。 私に悲しい想いをさせてしまったとでも思ったのだろう。それを打ち消すように、満面の笑顔でもう一度伝えた。 「嬉しかったよおばちゃん。 ご馳走様、そしてありがとう」 安心したように目尻を下げて笑う二つの顔が双子のように並んで上下する。 「そうかそうか、そりゃ良がった。 なっ、母さん」 「ああ、良がった…… じゃが、秋さんは……、翔子ちゃんのお祖母ちゃんは料理上手だったからのぉ。 何せ旅館の厨房を切り盛りしてたんだからな。 おばちゃんの味じゃ、ちょっと心配だけどな」 沢山の美味しいお料理と、おじさんとおばさんの沢山の優しさを貰った私。 もう、二度と味わうことが無いと思っていた温かい空間が居心地が良くて、時間が過ぎるのを忘れて過ごしていた。
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