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朝日を背に受けながら、かつての我が家を眺める。
「もう………ボロボロだね。
良く………頑張ってくれたね」
朝早く、桂木のおばさんの家を抜け出してきた懐かしい場所。
誰も居ない閑かな景色の中で、我が家に最後のお別れに来ていた。
「最後に、あなたの処で寝ようと思ったんだけどね……ごめんね」
昨日、夕飯を食べた後。
“おいとま”しようと荷物を持つ私におじさんとおばさんは驚いた顔で聞いてきた。
『何処に行くの?こんな暗くなってから』
『お祖母ちゃん家で寝ようと思う』と伝える。
『何言っとる。家に泊まりんしゃい部屋はあるし翔子ちゃんが来ると聞いて布団もお天道様に干しておいたんだぞ。
それに父さんが定期的に風を入れとると言ってもずっと空き家だったんじゃ……ほこりっぽいよ、躰に悪いじゃろ』
おじさんとおばちゃんの気持ちが有難くて、昨夜は太陽の匂いのする布団で眠りについた。
良く考えたら、電気も点かないだろう。
そんな事も考えずに【最後だから】と、家を出るときからここで過ごそうと思っていた。
だから、おばちゃん達が起きてくる前にここに来たのだ。
居間のテーブルに“家に行ってきます”と書き置きしてきた。
一人でお別れがしたかった。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの想い出の詰まったこの場所と。
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