第三帖 フェリシティ学園高等部における七不思議 考察偏

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 ノワールはほんの少しだけ過去に想いを馳せた。 ーーー  気が付いたら、光が眩しい世界に取り出された。ふわふわした温かな感触が体中に感じて心地良い。ゾリゾリとザラついた感触が頭や顔、背中に触れてそれがとても安心する。 『他三匹とも両親に似て真っ白なのに、この子猫一匹だけ全身真っ黒だなんて不吉だわ』 『仕方ないから神様に引き取って頂こう。四匹目など縁起悪いしな。それに尻尾が異常に発達して長い上に二股に分かれているじゃないか! これは不吉過ぎる!』  若い男女の声。同時に首根っこをつかまれ、狭い箱の中に閉じ込められる。いきなり真っ暗だ。まだ目が開かないから感覚でしかないが、後になって思えば段ボールに入れられて人間に運ばれていたのであろう。次に明るく感じたのは、冷たく平たいものの上だった。ザッザッザッと遠ざかる足音。空気が冷たい。ポツポツと何かが体に当たる感覚。寒い。このままでは危険だ! 本能が痛いほど警告した。必死に目を見開く。最初はぼやけていたものが、徐々に視界がはっきりとしてくる。鬱蒼と茂る樹々。木立の隙間から零れ落ちる水滴。座っている場所は後に知ったが石畳の上だった。すぐ傍にそびえ立つ赤い鳥居が印象的だ。寒い。水滴はどんどん激しくなっていく。 ミャアーミャー(だれかたすけて)  必死に声を上げた。不意に水滴が止む。見上げると、まず目に入ったのは優しい優しい鳶色の瞳。そして紅い唐傘。白衣(びゃくえ)緋袴(ひのはかま)に身を包んだ巫女だった。先々代の神渡神社宮司『神渡緋月(かみわたりひづき)』であった。以来、彼はノワールと名付けられ、代々神社を守る神の使いの猫として仕えるようになる。豊かな自然と愛情を糧に、日増しに妖力を身に着けていく。  時は移り変わり、陽月が生まれた。生まれながらにして樹や草花、動物たちとコンタクトが取れたり、自然霊が視えたりととても繊細で敏感な感覚の持ち主だった。幼稚園から大学院までと、エスカレーター式の私立学園に入学。幼稚園の時は初日で泣いて帰って来た陽月。聞けば、友達との何気ない会話で、 「あ、あの赤いチューリップのお花の中に妖精さんがいるね」  という一言で、周りの子から嘘つき呼わばりして囃し立てられたらしい。 (この子の個性を、腐らせることなく、真っすぐに育ててやりたい。逆境にもめげずしなやかな心と共に)  そう決心した瞬間でもあった。
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