第三帖 フェリシティ学園高等部における七不思議 考察偏

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 その甲斐あってか、再び元気に幼稚園に通うようになった。何か辛いことがあっても、そのまま受け止めてくれる場所があると子供は健やかに育つ。陽月の場合、両親も祖父母もまた、代々続くしきたりに縛られず自由に伸び伸びと育って欲しい、という価値観だったこともあるだろう。ある日、彼女は目を輝かせて幼稚園から帰宅する。 「ノワール聞いて聞いて! お友達が出来たの! いっぺんに二人も!」  興奮してノワールを抱きしめる陽月。聞けば、人の本当の気持ちが読み取れてしまう男の子と、その人の不調な部分を言い当てたり、手で触れるだけで痛みを軽減。癒しの力を持つ女の子だそうだ。二人とも別々の組だったそうだが、それぞれ仲間外れにされていて休み時間、一人でいるのを見かけていたのだそうだ。思い切って話しかけてみたところ、たちどころに打ち解けたらしい。  ノワールによると、男の子は感情を感知する力に優れたタイプの『エンパス』、女の子は『霊気』と呼ばれる気の力に特化したタイプに視えた。こうした力は、古来全ての人間が兼ね添えていたものだったが、時代とともに必要がなくなり淘汰されていったのである。普通は退化している力が、この三人は開いて生まれて来た。そう分析していた。  三人は自然に陽月の家に集まって遊ぶようになった。小さな山の上、森、川、田畑に果樹園。溢れる自然の恵みに居心地が良いのだろう。陽月達が小学校四年生になった時、オカルト・ミステリー研究会を立ち上げる。三人はクラスが変わってもいつも一緒で、「不思議な力を持つトリオ」として一目置かれるようになっていた。それに、学校の七不思議など、生徒達から寄せられた謎の解明に真摯に取り組み、誠実に対応していく姿に教師陣も心打たれたのだろう。その頃にはノワールも人型に変化(へんげ)出来るようになっていた。  彼らは目出度く『フェリシティ学園中等部』に入学。オカルト・ミステリー研究会はそのまま続行された。小学校には後を継ぐものが居なかった為、「怪現象かも」「幽霊かも」と生徒たちから寄せられた相談事は、中等部に寄せられる事となった。そのほとんどの現象が思い込みだったり、妖怪の悪戯だったりと心配のないものだったが、子供たちに危険が及ばぬよう、しっかりとノワールが補佐し守ってきた。『目に見えぬあちらの世界』は生半可な気持ちで関わると恐ろしい事になりかねないからである。
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