第三帖 フェリシティ学園高等部における七不思議 考察偏

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「午前中だったわね。その時は良いお天気だったの。ゴールデンウイークもね、わりと全国から参拝に来る人が増えるから、家には誰も大人がいなくて遊び放題だったのね。それで、猫の姿のノワールと果樹園で探偵ごっこをして遊んでいたの。初夏の風がキラキラと草の香りを運んで来て、とっても爽やかだったわ。そしたらいきなり、ノワールが空を見上げて『急いで家に戻れ! 大雨が降る!』て言うの。そして耳をピクって動かして森の方を見てね。『先に家に戻ってろ。私も後から行く!』て言い残して物凄い勢いで森の方に駆けて行っちゃったのね」  陽月はそこまで話すと、ノワールに笑顔を向けた。ノワールは笑みを返し、頷く。そして口を開いた。 「大雨が来る、と風が空気と風の精霊が告げてくれたのでな。同時に森の奥でキューキューと小動物の鳴き声がしたのだ。なんだかとても悲し気でな。放って置けなくなって走り出したのだ。そしたら森の少し奥まった茂みから声が聞こえてな。茂みを掻き分けてみると、そこには小さな小さな薄茶色の天竺ネズミが震えて鳴いていたのだ。怖がって硬直しているようなので、まずは全身を舐めて落ち着かせた。すぐに大雨が降って来るから、首根っこを咥えて家まで走ったのさ。後から知ったが、天竺ネズミ科のモルモット、という小動物だったらしい」  ノワールはそこで言葉を止め、笑顔で陽月と喜響を見た。 「ノワール、急にどうしたんだろう? て心配でね、玄関先で待ってたの。そしたら、なんだか小さな生き物を咥えて走って来るから。何事かとびっくりしたわ。一瞬、古来の血が目覚めてネズミを捕獲して来たのでは、とちょっと焦っちゃった」  陽月はクスクス笑いながら話終わると、喜響を見つめた。彼はへへ、と少し恥ずかしそうに笑うと、話を引き継いだ。 「あの時は独りぼっちで心細くて、本当に怖かったんだ。妖怪の古くからの習わしの一つで、コミュニケーション力とサバイバル能力を身に付ける為には、人間界で人間に紛れて生活するべし、ていうのがあってね。その一環で、父さんと母さんにあそこに放っておかれたんだよ。神社の近くというか敷地内の森に放置したのは、すぐに誰かが拾ってくれる、それを期待していたらしいんだけどさ」
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