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陽月の耳に、さわさわと風が耳に囁く。五感をフルに活用すれば聞こえて来る。頭上に鳥のさえずり、草花たちの憂鬱、虫たちの溜息……。
『……ガウノ……ウノ……』
やがて陽月の胸に響いて来る。か細く、たどたどしい声。
(どうしました?)
心の中で、優しく問いかけた。少しずつ、脳裏に浮かぶ。薄桃色の単衣に紺色の袴。焦げ茶色のブーツ。漆黒の艶髪、桃色の大きなリボン。白魚の手。細面、目元涼やかな和風美少女。
『コワ……ガラ……セ、ルつもり、はなくて……』
徐々に滑らかになる少女の滑舌。漆黒の瞳を潤ませ、必死に陽月に訴える。
(ええ、勿論。分かっていますよ)
『有難う。私はただ……』
陽月はにっこりと微笑んで見せた。少女は近寄り、両手を自らの口元にあてる。陽月は彼女に耳を傾けた。恥ずかし気に囁く少女。うん、うん、と陽月は真剣に耳を傾けた。
(……分かった。何とか頑張ってみますね)
『有難う……』
陽月はにっこりと微笑んだ。スーッと消える少女。陽月の心の中のイメージの世界だ。
目を閉じて両手を胸の前に合わせたまま微動だにしない陽月を、一同は静かに見守っていた。やがて彼女はゆっくりと目を開く。その瞳は力強く輝いていた。
……手応え、ありだな……
その瞳を見て、誰もがそう感じた。
「どうやら噂は半分本当で半分は事実じゃない、そんな感じみたい。ここで話すことじゃないから、次の七不思議に進みましょう。きっと、進んでいくうちにきっとリンクすると思うわ。その時にお話し出来ると思う。今はまだ、推測の域だけど」
陽月はゆっくりと説明した。
「そっか。じゃあ早速次に進もう。七不思議その② 校舎玄関先に飾られている白ユリのステンドグラスが、黒く染まっているように見える時はその人に不吉な事が起こる。すぐそこだな」
琥珀の指示に従い、一同は喜響を先頭に校舎の中を目指した。
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