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「ええ? そうなんだ! だから皆大急ぎで花を咲かせるんだね」
陽月はまるで紫陽花が何かを答えたかのようにして話しかける。風がサワサワとそよぎ、彼女の頬を撫でた。
「紫陽花は何て?」
不意に、甘く澄んだ、それでいて深みを帯びた声が響く。それはどことなくオカリナを思わせる声色だ。どうやら少年の声らしい。陽月は振り返り、声の主に笑顔を向けた。彼女の瞳に映し出された少年は、人懐こい笑顔が印象的だった。
ハーフ、いやクォーターだろうか? 陶器のような青みがかった色白の肌、フサフサとした明るい茶色の髪は少し長めのショートカットで、軽く波打っている。彫の深い顔立ちからして、形良く整えられた茶色の眉は元々は濃いのだろうと思われる。深緑色の瞳はくりくりとしていて、キュートで可愛らしいタイプの美少年だ。
「年々春と秋が短くなってきてるから、そのしわ寄せでね。早く咲かないと、咲かない内に枯れて天然のドライフラワーになっちゃうんだって」
陽月はほんの少し寂しそうに答えた。彼女は幼い頃から動植物と話が出来たり、精霊や妖怪が視えたりと、特殊で繊細な感覚を持つこと以外はごく普通の人間の少女である。
「なるほどなぁ、地球の自浄力が落ちて来てるもんなぁ」
彼はしみじみと答えた。胸の部分に朝日の照る海で泳ぐ二匹のイルカが描かれた、白い長Tシャツ。深緑のカラーパンツに臙脂色のスニーカーを身に着けていた。身長はかなり高めで、細身の筋肉質な体型のようだ。彼の名は鶴間喜響。和名からしてクォーターか? と思われたが……
「喜響、お腹空いてきたんでしょ!」
陽月は悪戯っぽく笑った。
「え? なんで分かるんだよ?」
「だって耳がピョコンて……」
陽月は両手を左右の耳の上にあて兎の真似をしてみせた。慌てて両手で頭をおさえる彼。
「未だにその癖、治らないわね」
「気を付けてるつもりなんだけどなぁ……」
彼の抑えた部分にはモフモフフワフワの獣耳が生えてきていたのだ。髪がそのまま獣耳を形作った感じだ。空腹を感じるとモコモコと髪が持ち上がり、獣耳が出来上がらしい。それは何となくモルモットの耳を思わせる。
それもその筈。彼の真の正体はモルモット……もとい、妖怪『すねこすり』なのである。
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