第四帖 フェリシティ学園高等部における七不思議 行動編

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 校舎入口には右手に生徒たちの靴箱が並び、正面の壁には夜空をバッグにした白ユリが一輪描かれたのステンドグラスが飾られている。花と葉がリアルな作りで、葉脈や花の(がく)の状態が繊細に表現されている。星の様子も本物のようだ。  一同は上履きに履き替え、校舎に上がりステンドグラスの前に横一列に並んだ。左から喜響、琥珀、の順番だ。それぞれがステンドグラスを凝視する。そして当然のように、人の本音、無意識に封じ込めた本心を感じ取る事の出来る琥珀に、一同は目を向ける。彼は頷くと、大きく深呼吸をして目を閉じた。  目を閉じてステンドグラスに集中する。すると周りに浮遊する人々の雑念が脳内に響いて来る。 ーーーあー、かったるいなぁ。サボりたいなぁーーー ーーーなんでアイツばっかり贔屓して。俺のが上手いのになんで俺が二軍なんだよーーー ーーーフラれた、もう死にたいーーー ーーーウゼーンダよくそババア!ーーー  雑念……聞こえるのは主に不特定多数の負の感情だ。琥珀は目を開いた。そしてステンドグラスを見つめながら切り出す。皆、静かに彼の言葉を待つ。 「俺が感じた限り、このステンドグラス自体には何の問題も無いと思う。ただ、このステンドグラスが目に入りやすいからか、方角の問題か。気の流れが溜まり易いらしくて色々な人のマイナスの念が渦巻いてる感じだ。体調が優れなかったり、メンタルが不安定な状態の人がこのステンドグラスを見たら、白い百合には視えないんじゃないかな。気分的に。黒とは言えないまでも、グレーとかさ」  とハッキリと言い切った。そして癒しの力を持つ萌音に顔を向け、頷いて見せる。萌音視点の見解を求めているのだ。こんな風に、二人はペアを組んで調査に当たる事が多い。琥珀が分析、萌音がサポート。そんな感じだ。  そんな時、陽月の胸がほんの少し軋む。微かに痛みを覚える瞬間だ。けれども、気付かないふりをしていた。同時に気づかれないように努めていた。彼女の瞳に、ほんの少し影が差す。その様子を、ノワールは静かに見守っていた。  萌音は琥珀に頷いて見せると、ステンドグラスを見上げた。そして軽く目を閉じた。皆も、萌音の見解を静かに待つ。
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