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喜響は一歩下がると天を見上げ、右手を天に翳した。
「空気の精霊さん、風の精霊さん、僕は妖怪『すねこすり』だよ。あのね、ちょっとお願いがあるんだ。……うん、有難う。うん。あのね、僕の大切な人たちの為に、ちょっとだけ通り道をずらして欲しいんだ。……うん。勿論、道筋はこちらが作るよ。うん。有難う!」
虚空で視えない存在たちと親し気に会話をしている様子の喜響。
……空気の精霊さんて、小さな白い綿みたいなのね。風の精霊さんは、アクアマリンを精霊さんにかたどったみたいな感じなんだ可愛い。今までお話しはしたことあったけど、初めて意識を合わせて視たわ……
陽月は、喜響と精霊たちの様子に意識を合わせ、視覚化を試みた。自然に笑みが零れる。その様子を、優しい眼差しで見守るノワール。そんなノワールを、少しだけ寂しそうに見つめる萌音。全体の様子を、屈託の無い笑顔で見守っている琥珀。いつのころからか、それが『オカルト・ミステリー研究会』の日常風景の一つとなりつつあった。
喜響はニヤッとノワールに笑って見せた。ノワールはこくりと頷く。そして軽く目を閉じ、両手で素早く印を結んだ。
「清浄なる光よ、この場を清め給え! 風、空気の精霊達よ! 我が契約に従いて、その道を我が示す先に移せ!」
と詠唱し、目を開くと右人差し指を斜め上に翳し、指し示した。
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