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「これはな、一種の洗脳とも言えるのだが、鏡に向かって自分に話しかけたりすると、催眠状態に入りやすいんだ。だから潜在意識を変える為に鏡に映った自分に向かって、なりたい自分・叶えたい夢を、あたかもそれが叶ったかのように語りかけると夢が叶うとか言われる。だがそれは、かなり危険なことなのだ。じっと鏡の自分を凝視し続けると、なんとなく鏡に映る世界が似ているけれども異世界に視えたり、鏡の中の自分が話しかけてきたり。そんな錯覚に見舞われなかったか?」
ノワールは声のトーンを少し下げ、冷静に切り出す。
「うん。そうなんだよ。なんだか鏡に映る俺が別の人格を持って話し出しそうな感じがしてさ。おかしな気分になったよ」
と琥珀は大きく頷きながら答える。
「そうそう、鏡に映る琥珀が琥珀であって琥珀じゃない、みたいな。鏡に映る世界は異世界のような。クラクラして酔ったような気持ち悪い感覚だったわ」
と萌音は右手で口元をおさえ、気味が悪いというように答える。
「そうなのよね。なんだか軽く船酔いしたみたいな感じと、鏡に映る世界が、二つの絵や写真を比べて異なる部分を探すゲームみたいな。そんな風にどこか鏡の世界が異なっているような、少し怪談めいた雰囲気に感じられてきたりしたの」
陽月は身震いするような仕草で答えた。
「そう。その状態が催眠状態なんだ。だからね、暗示にかかりやすいんだよ。鏡を凝視すると、異世界云々……つまり、暗示にかかっている状態だから、意識の中で残っている世界を反映させやすいんだよ。よく言う『ゲシュタルト崩壊』みたいな感じだよね。つまり、一つのものを凝視していると、これってこんな感じだっけ? て認知が低下しちゃう状態だね」
喜響は朗らかに説明を加えた。ノワールとの対照的な口調もまた、この『オカルト・ミステリー研究会』の名物でもあった。
「じゃぁ、七不思議その④ 西側4階の踊り場に、等身大の鏡がある。そこに午後4時44分44秒に自分の姿を写すと、自分についてる悪霊や邪霊、所謂よくないモノが見える。そして見えたものは、その代償に鏡の世界に引き込まれてしまう。この真相って……」
陽月は呟くようにして切り出した。
「あぁ。鏡を凝視する事によって起こるゲシュタルト崩壊。暗示にかかった状態の事だ」
ノワールははっきりと言い切る。
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