54人が本棚に入れています
本棚に追加
「妖力を使わないで、学園ではクォーターで癖毛……で通っちゃうのが何とも凄いわよねぇ。さすが妖怪『すねこすり』というかね」
陽月は半ば呆れたように笑う。
「あはは、僕の本領発揮、て感じか」
喜響は照れたように笑った。そして妙に真面目くさって1オクターブ低い声を出し、
「妖怪『すねこすり』。夜、暗い中を歩く人間の前に出現。脛のあたりをモフモフとじゃれていく。その実体は可愛い可愛いモルモット(の妖怪)。あまりの可愛さに、見た人間はデレデレと腑抜けになってしまい、ずっと見ていたい、触りたい、一緒に遊びたい、とすねこすりの事しか頭になくなってしまうという恐ろしい妖怪である」
と自らの正体を説明する。
「ププププ……自分で自分のこと説明する、てなんか笑っちゃう」
陽月は堪え切れすに吹き出した。喜響もつられて笑い出す。初夏の森に、朗らかな笑い響く。まだ蕾の紫陽花や、今が見頃の躑躅が風に揺れた。
「取りあえず、なんか食べましょうか。お昼にはまだかなり早いけど」
ひとしきり笑い合ったあと、陽月は提案する。
「賛成ー! 皆が来る前になんかお腹に詰めて置かないと集中できないもんねー」
彼は本当に嬉しそうに笑った。向日葵みたいな屈託の無い無垢な笑顔だ。二人はもと来た道を戻り始めた。
ミャーン
進行方向の少し先の茂みから、猫の鳴き声がする。
「あ! ノワール!」
彼は嬉しそうに声を上げると、タッタッタッと軽快に走り出した。陽月は構わずマイペースで歩いていく。
最初のコメントを投稿しよう!