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ザーーーーーーーー
「ふぅ、セーフだ」
陽月はホッと安堵の溜息をつく。一同が玄関に駆け込んだと同時に大粒の雨が降ってきたのだった。皆、陽月の住む家のキッチンダイニングにいる。神社から少し歩いた場所に生活する家があるのだ。
「やっぱり走って正解だったね。人間の姿って走りにくいからさ。危うく元の姿に戻ろううかと思っちゃったよ」
喜響は少しはにかんだように笑みを浮かべた。
「やっぱり二足歩行は走りにくい?」
「普通にゆっくり走るのはまだ良いんだけどさ、速さを必要とされる場合だとやっぱり元の姿には敵わないよね」
「そうなんだ。やっぱりね、四足のほうが早く走れるっていうのはなんだか納得いくわねぇ。人間が四つん這いになって走ったら早いのかどうかは知らないけど」
陽月は会話をしながら冷蔵庫の野菜ケースを開ける。使いかけのキャベツと人参を取り出すと、流水で洗いまな板の上に乗せる。そして手早く包丁で刻み始めた。
ミャー
ノワールは喜響の隣に椅子に飛び乗ると、姿勢を正して座った。ほどなくしてジュージューと何かを炒めている音がする。
「いい匂いだ!」
嬉しそうに喜響は声をあげる。そして料理が出来上がった様子を察知すると、サッと立ち上がりキッチンに向かって歩き出した。
「出来たよ」
「うわっ、美味しそう!」
深めの白い皿の上には、艶やかな薄茶色の太めの麺と淡い緑のキャベツ、赤い人参。そして鰹節が沢山かけられて生きたように動いていた。二人分の焼うどんを受け取り、テーブルに運ぶ喜響。陽月はもう一人分の焼うどんと、冷たい麦茶を入れたガラスコップを三つトレイに入れたものを手にして続いた。
喜響はノワールの前と自分の前に焼うどんを置いて腰をおろす。陽月は自分の前に焼うどんを置き、自分と向かい側の一匹と一人……一体と表現すべきか……の前に麦茶を置いた。全員が席につく。するとノワールは
ナーオ
と一声天井を向いて鳴くと、体全体がパール色の光を放ち始めた。
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