第一帖 初夏の森

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  徐々にその光は強さを増し、眩しいくらいに輝き出す。そして突然光が弾けたようにパッと煌めきが飛び散った。パール色の煌めきの余韻を残し、そこに現れたのは……  淡いブルーの着物、紺色の帯に身を包んだ年若い男だった。背は高く、長い手足を持ち、小麦色の艶やかかな肌に黒豹を思わせるしなやかな体つき。腰まで伸ばされた漆黒の長い艶髪は、見事なストレートで後ろに一つ束ねてある。上品な黒い眉。形の良い鼻、引き締まった唇。大き目の切れ長の瞳は漆黒の長い睫毛に囲まれている。瞳の色はまるでエメラルドのようだ。 「さて、頂くとするかな」  その男は蕩けるような笑みを浮かべた。その声はチェロを思わせる。深みを帯びた澄んだ声色(こわいろ)だ。乙女ゲームに出てきそうなキャラそのままである。そう、この男は 「ノワール、鰹節沢山かけてあるからね」  陽月は笑顔で話しかけた。彼は二股尻尾の黒猫『ノワール』が、人型に変化(へんげ)した姿であった。 「それは嬉しい」  ノワールは屈託ない笑顔を見せた。白い歯が眩しい。そして箸を手に取ると、焼うどんに伸ばす。 「うん、いつもながら美味だ」  と陽月に微笑む。 「良かったわ」  嬉しそうに笑った。 「いただきまーす!」  喜響も元気よく両手を合わせ、挨拶をすると素早く箸を取り、早速焼うどんを頬張った。 「んまっ!」  嬉しそうに微笑む。 「お代わり沢山あるから、どんどん食べてね」  と陽月は笑顔で喜響、そしてノワールを見つめた。そして 「頂きます」  と両手を合わせて挨拶をすると、箸を取った。 外はまだ雨が降り続いている。雨音を聞きながら、一同はしばらく夢中で食べ続けた。
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