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「……うわぁ、綺麗! 大きな虹ね」
陽月はうっとりと目を輝かせ、空を見上げている。食事が終わって、冷たい麦茶を飲みながら三人で……いや、一人と二体、と表現すべきか……寛いでいた。すると急に雨が小降りになると同時に、突如として太陽が強く照り出したのだ。
「虹が出るに違いない」
ノワールの冷静なこの一声に、陽月が弾けるように立ち上がり、玄関へと走った。それに釣られるようにして喜響が続き、ノワールがゆっくりと後に続いた。
「いきなり晴れたからな。これは色濃く出ている虹だな」
喜響は笑みを浮かべて虹を見上げる。彼らは今、家の庭に出て大空を見上げていた。ポツポツと微かに雨雫が落ちる中、鳩色から淡い水色、そしてスカイブルーと見事なグラデーションの天空キャンパスいっぱいに、大きくて幅広の七色の架け橋がかかっていた。陽の光が眩しく彼らの背後を照らし出す。
「朝虹は西空に見えて、雨が降る。夕虹は東の空に見えて晴れる。古来の人間はそう言って天気を予想したりしたものだ」
ノワールはしみじみと言う。そして更に、
「古来は虹を蛇や流に例えたりして災害をもたらす存在とされていたり、逆に神聖なものとして指を指すと失礼にあたり差した指先から腐ってくる、という言い伝えもある。まぁ、大自然に畏敬の念を持っていた証拠でもあるが」
と続けた。
「最近では虹は幸運や希望の象徴、とか、虹色に輝く雲『彩雲』は『吉兆』の印、とか言われているわよね。虹の七色は、七つのチャクラに対応しているとかいうスピリチュアル的な解釈もあるみたい」
陽月は付け加えた。
「昔より今の方が夢がある感じだね」
と喜響。
「何を信じるかは自分次第、情報リテラシー、てやつだな」
とノワール。
この二体がどうして人型に変化してここにこうしているのか? の説明は、後に譲ろう。
これから二人の人間かここに加わる事になるのだ。彼らはその二人を待っているところであった。
やがて少しずつ空の色はスカイブルーが勝り、鮮やかな七色の虹は淡い色合いへと変化していった。
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