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 どれくらい時間が経っただろう。ふと、懐かしい匂いを感じた。水温が一気にあがったような気がした。あの浜で生まれた兄弟の匂いだった。  生きていた!  みな散り散りになって波間に消えた。彼女自身、幾度も危ない目にあった。他に生き残った兄弟がいるとは思ってもみなかった。  今なら分かる。青い水の世界は、幼く柔らかい子供を守ってくれはしない。そこでは誰もが自由だが、同時に危険でもある。抵抗するすべのない卵を抱くのは、重く暖かい砂なのだ。  喜びが身体を満たす。孤独な旅はもうすぐ終わる。  前肢で水をかく。  早く、早く、もっと早く。  生まれた浜を彼女は目指す。 【 終 】
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