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「サンダル飛ばすの好きだね」
前から声がして、反射的に顔を上げた。
ビニール傘をさした快晴くんが、サンダルを持って立っていた。
「なんで、なんでいるの」
「さあ?死んだらすぐ消えるかと思ったけど、消えなかった」
サンダルを私に返しながら、悲しそうに笑った。
「ごめんね、ずっと黙ってて。濡れるから入って」
「ほんとだよ。びっくりしたでしょ」
あとからあとから溢れてくるそれは、雨のせいだなんて誤魔化しきれなかった。
「泣かないの。さっきのもちゃんと見てたよ。教えたとこ直ってた」
「ほんと?あのね、今までで1番綺麗に踊れたの」
「踊りは綺麗だった。そのぐっちゃぐちゃの顔と髪、どうにかした方がいいよ」
「うるさいな!」
快晴くんは、可笑しそうにお腹を抱えて笑ったあと、私に傘を持たせてくれた。
「じゃあ、もういかないと。風邪ひくなよ」
「…っ、また、また会える?」
「美穂が踊るのやめなかったらな」
快晴くんは傘から出て、瞬きをした瞬間にふっと消えた。
跡形もなく消えた。
「ばか、まだ私言いたいことあったのに」
雨と一緒に降った桜は、ビニール傘に模様をつけた。
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