1日目

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飛んでいった赤色は、花弁の中で美しく映えた。 パサ、と地面に落ちたサンダルを、誰かが拾い上げた。 知らない人に踊ってるところを見られてしまった、と思った。 俯いていた顔を上げると、そこには小学生の頃のクラスメイトが立っていた。 「久しぶりだね」 そう言って笑うのは、牧村快晴。 快晴くんとは、すごく仲が良かった。 下の名前で呼び合うほどに。 私より低かった身長は随分と高くなっていて、声も知らない男の人みたい。 快晴くんは、小さい頃にバレエをやっていたそうで、よく私が1人で踊っているのを見てくれていた。 小学校を卒業と同時に都会へ引っ越してしまったから、もう会うことはないと思っていた。 「久しぶり…快晴くん、どうしたの」 「4日後にきっと、葬式があるんだ。だから帰ってきた」 右の頬にあるえくぼは、昔と変わらない。 「美穂さあ、ほんと踊るの好きだよな」 よくこんな靴で踊れるよね、とサンダルを渡してくれた。 「バレエ教室は中学の時やめちゃったけどね」 「ふーん、だから踊り下手になってんの?」 「え、嘘でしょ!?もう1回踊るから見て」 めんどくさい、と言いながらもしっかり見てくれるのが快晴くん。 ここがダメだからこうしたほうがいい、と的確に教えてくれる。 ひとつ息を吸い込んで、今度はその場で踊り始めた。 小学生の頃を思い出して、楽しくなってきた。 足がもつれても髪が解けても、踊ることはやめられなかった。 「どう?」 踊りきって、少し乱れた呼吸を整える。 快晴くんは、満足したようにふっと笑った。 「いいじゃん。やっぱ綺麗だな」 俺もまだ踊ってたかったわ、という声が、なぜだか少し切なげに聞こえた。 「いつまでいるの?」 「うーん、葬式が終わったらそのまま帰る」 「それまで私の踊り見てよ」 めんどくさい、と繰り返す快晴くんに約束を取り付けて、その日はお開きとなった。 明日までに、家で練習してこよう。 ちゃんと踊りやすい靴で来よう。 やってくる次の日が待ち遠しくて、入念にストレッチをしてから眠りについた。
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