2日目

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2日目

「だから、そこの手が伸びてないって言ってんでしょ」 「どこ?伸びてるじゃん?痛い痛い痛い」 「ここだって言ってるでしょ、話聞けよ」 昔から何も変わらないスパルタ教師は、私の関節を曲がらない方に曲げてくる。 そのうち腕が取れてしまうんじゃないか、なんて考えたこともある。 相変わらず人が通らない並木道の桜の下で、私の悲鳴が響き渡る。 「ちょっと休憩するか」 「うん…疲れたぁ」 リュックに入れてきたスポーツドリンクを飲んで、ハンカチで汗を拭いた。 こんなに本気でやると思ってなかった。 明日はタオルを持ってこよう。 「美穂はなんでバレエ辞めたの?」 「あー、怪我しちゃったんだよね」 快晴くんが引っ越してから、私の踊りはどんどん下手になった。 指先は伸びないし、ターンもまともにできない。 バレエ教室の先生には、何かあったのかと心配された。 下手になったのは技術だけじゃない。 心が入らなくなったのだ。 感情が入らないから、表現力も全くなくなった。 大丈夫です、と意地を張って出た発表会で、怪我をしてしまった。 怪我をしたタイミングと高校受験の勉強が重なったから、バレエを辞めることにしたのだ。 バレエ教室を辞めてから、すっと心が楽になった。 好きな曲をかけて、好きな振り付けで踊って。 踊る楽しさを思い出したのは、ほんの最近のことだ。 家の中で踊る私をみて嬉しそうにしていた母親の顔は、いつまで経っても忘れられない。 「じゃあ、明日もお願いします」 「はーい…ってそうだ、明日話したいことがあるんだよ」 「えー、なに。告白?」 「馬鹿野郎」 オレンジの空が私と快晴くんの影を伸ばす。 散り始めた桜は、地面に落ちても綺麗だった。
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